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転入者増の奈良市・人口日本一の横浜市の現役広報に学ぶ|地域の活性化とプロモーション活動

プレスリリース配信サービスなどを運営するPR TIMESでは、「これからは広報PR活動を強化したい」「現在、情報発信に取り組んでいるものの、うまく伝わっていない」と課題を感じている自治体に向けたセミナーを開催。

本レポートでは、福岡県庁、神奈川県横浜市など7つの自治体に対する広報アドバイザーとして活躍する佐久間さんの講演内容をまとめた「自治体が今やっておきたい広報活動を解説|住民に伝わる広報誌とメディアにひびくプレスリリース」に続き、奈良市、横浜市で現在広報として活躍するおふたりの話をレポートします。

2021年、過去最大の転入者数増を実現した奈良市に学ぶ

奈良市の現在の人口はおよそ35万人※。2015年まで転出超過の一途をたどっていた奈良市ですが、2016年以降改善傾向となり、2019年には転入者数が転出者数を上回りました。

2021年には過去最大の転入超過を実現した奈良市が、どのようなシティプロモーションを行い課題を解消してきたのか、事例と一緒に見ていきましょう。

奈良市役所「令和4年11月1日現在の市内人口(住民基本台帳による)」より

奈良市役所さま投影資料1
登壇者高松氏投影資料より

奈良市役所 秘書広報課 シティプロモーション係長

高松明弘(Takamatsu Akihiro)

2015 年に奈良市役所入庁。SNS 広報・動画広報・移住歓迎を担当。大学生による地域魅力化プロジェクト、商店街オープンテラス「SUN DAYS PARK」、オンライン移住相談、お試し移住支援制度などに取り組み、年少人口(0 ~ 14 歳) の転入超過数では2021 年関西4 位・全国17 位。プライベートでは、地域コミュニティプロジェクト「編集奈良」代表、地元の自治会長も務める。

30、40代の転入者を増やすためにやったこと

「若年層にいかに伝えるか」これが奈良市のひとつのテーマです。そこには、ふたつの課題がありました。

  1. 全国のニュースにならない(エリアの限界)
  2. 若年層に情報が届かない(世代の限界)

オンライン移住相談

遠方の方も気軽に参加できるオンラインでの移住相談ですが、当時はまだまだめずらしく、話題になりました。ここで、全国で取り扱われるために使用したのがプレスリリース。地方紙だけでなく、全国で「1.全国のニュースにならない(エリアの限界)」の解消を図っています。

プレスリリース配信のポイント
・開始した背景・ストーリーを掲載する
・イメージ写真を撮影、一目でわかるサムネイルに
・タイトルをコンパクトでインパクトを

参考:奈良県初!奈良市オンライン移住相談窓口を開設

お試し移住制度

奈良市には多くのゲストハウスがあり、コロナ禍で観光客が激減したことで営業の継続が困難な状況でした。一方、移住相談や移住のニーズが増えてきた中で行ったのがお試し移住支援制度。一週間で150泊完売、利用者の9割が移住の意向が高まり、そのうち3割が実際に移住を決定したそうです。

奈良市に住む魅力の伝え方
・プレスリリースでメディアや全国にいる対象者に訴求
・ゲストハウスオーナーが観光の魅力→移住の魅力を案内
・移住した人が制度や移住特典を口コミ

参考:「ゲストハウスでお試し移住支援制度」を開始します

広報大使を公募

行政主催のイベントに興味を持ってもらいづらい、若年層に対する訴求ができる広報、SNS運用ができる人がいない……という課題が挙がり、行ったのが広報大使の公募。公式アンバサダーとして、イベントの周知活動を依頼しています。金銭の報酬はなくとも、奈良市の魅力の発信自体にやりがいを感じ、対象のイベント周知につながった事例です。

奈良市役所からの依頼にはなかったものの、自発的にTikTokでコラボレーションが生まれ、11万人のフォロワーが付くまでに。

ふるさと納税事業者の発信を促進

PR TIMESにプレスリリース活用セミナーの開催を依頼し、ふるさと納税事業者からの発信を促す取り組みを行いました。商品やサービスの価値をどう伝えたら顧客やメディアに届くのかを考えてもらう機会に。奈良市の魅力と同時に、奈良市の事業者から魅力を発信されることで、より奈良市に対する興味や関心が高まるでしょう。

奈良市の学生の活動を支援

活動のサポートとして、広報活動の支援と情報提供・意見交換の機会の提供のふたつを行っています。

広報活動の支援の中で、大型のデジタルサイネージモニターの企画がありました。市内近鉄全駅にデジタルサイネージモニターを奈良市役所が用意し、学生の活動内容を掲載できるというもの。多くの学生が関心を示し、一度掲載した後も積極的なブラッシュアップを図り活動しています。

奈良市役所さま投影資料3
登壇者高松氏投影資料より

食から奈良市の魅力をPR

関西では子育て支援を手厚くすることで、若年層の転入促進を図っており、奈良市も同じく子育て支援を重視しています。また、街や食の魅力をPRすることで、転入促進を進めています。

「食べないと帰れない」をつくる

奈良市内で地域の方々を中心に行われているのは「かき氷」による地域の活性化。氷の神さまが祀られているといわれる氷室神社があることから、さまざまなかき氷イベントが行われていました。ラーメン屋さんでもかき氷を提供されるなど、地域全体で盛り上がっています。そのほかにも食のルーツを探ると、うどん、まんじゅう、日本酒などの食品が奈良市にゆかりがあることを発見し、PRを進めています。

奈良市役所さま投影資料2
登壇者高松氏投影資料より

そして、奈良市に来たら「食べないと帰れない」ものをひとつ作ろうと、ブランドいちご「古都華」が生まれました。これは、3,000株の中から選び抜いた非常に糖度の高いいちごとのこと。いちごとして食してもらうのはもちろん、スパークリングワインに仕上げたり、サイダー飲料を開発したり、そのサイダーで割ったハイボールを販売したり……さまざまな訴求をしています。

古民家を活用した奈良らしさ

観光客が奈良らしさを感じられる町並みを維持するため、古民家の修復に対する補助金制度を導入。そんな町並みになじみながらも、新しい体験ができるスポットとして無人書店「ふうせんかずら」や無人シェアシアター「青丹座(あおにざ)」などができています。「青丹座」は、アイドルファンが大きなスクリーンと壁一面のポスターで、家庭では味わえないオフ会を開催することも。

古い印象がある地域で新しい取り組みを進めている奈良市ですが、いずれも課題解消に対する企画とそれらを支える広報PRがセットになっています。

日本一の人口を誇る横浜市に学ぶ

1945年以降毎年人口が増え、2020年に減少に転じるまで75年間の間人口が増え続けていた横浜市※。2022年も377万人を超える人が住み、日本国内でもっとも人口が多く、にぎやかな街です。

そんな横浜市のシティプロモーションとは。

横浜市役所「統計・調査:第1表 人口、世帯数及び面積(各年10月1日現在)」より

横浜市役所 シティプロモーション推進室 広報戦略・プロモーション課 担当係長

関戸貫生(Sekido Kansyo)

2016 年入庁。文化観光局にて横浜市の都市ブランディング、シティプロモーションを担当。2022 年度、横浜市の情報発信部門を一元化した新たな組織である「シティプロモーション推進室」の設立メンバーに。現在は、居住促進プロモーションを担当。データに基づくPDCAサイクルの確立を目指し、ソーシャルリスニング、デスクリサーチツールの活用、露出分析などにも精力的に取り組む。

横浜市シティプロモーション実行のステップ

2022年、横浜市は広報の体制を変え、よりシティプロモーションを強化しています。体制から見ていきましょう。

シティプロモーション強化のための体制変更

2021年まで「文化観光局(魅力づくり)」「市民局(広報)」「政策局(秘書・報道)」と、それぞれ情報発信を担っていた3つの部署を「シティプロモーション推進室」としてひとつにまとめ、総勢50名でプロモーション強化を推進しています。

横浜市役所さま投影資料1
登壇者関戸氏投影資料より

横浜市がつくりたいブランドイメージを言語化

プロモーションをするためには、市としてどういうブランディングをしたいかを明確にしておくことが必要。横浜市では以下を掲げています。

[ブランドエッセンス(市民や観光客に対する約束)]
・新しい発見
・感性が磨かれる感覚
・ワクワクする高揚感

[ブランドスローガン]
あうたびに、あたらしい/Inspire Your Soul

言語化したことにより庁内で意思疎通が図りやすく、スムーズな施策展開に影響しています。

シティプロモーションの取り組みを策定

横浜市は現在、大まかには「重点的に売り出したい事業のサポート」「転入定住の促進プロモーション」のふたつを置いています。

  • 重点的に売り出したい事業へのサポート(観光/経済)
    └ PR TIMESの活用
    └ プロモーションのプランニングサポート
    └ フリーパブリシティ獲得のためのメディアアプローチ
  • 転入、定住促進プロモーション

横浜市のイメージやニーズの把握

一方で、横浜市がどうイメージされているかを知る必要があります。そのために行っているひとつが「横浜」というキーワードと一緒にどのようなキーワードが検索されているかを見ての仮説検証。商業施設、イベント、観光スポットなどのレジャー・観光にまつわるキーワードや何かの発祥、開港の歴史に紐づくようなキーワードがよく出てくるそうです。

横浜市のプロモーション力向上の取り組み

プロモーション力向上のために何を取り組み、どうPDCAをまわしていくのか。そして、PR TIMESをいかに活用するか。自治体の広報担当者は気になる点ではないでしょうか。

取り組み内容とPDCA

ここからは、横浜市が現在行っている4つの取り組みを紹介します。

取り組み1.庁内向けの基本方針の策定

完成前とのことでしたが、プロモーションをする際の方向性や方針を庁内に示せるよう、策定中。概念的なものではなく、もう少し具体的な内容を全職員が参照できるようにしています。

取り組み2.データを活用したPDCA

横浜市のPDCAステップ、特に企画までの情報収集や効果測定の方法・項目の参考になります。

  1. 関心課題把握(検索データ、位置情報データをもとに興味関心を可視化)
  2. 企画立案
  3. 実施
  4. 効果測定(PR TIMESも併用し、4大マスメディアの掲載数・リーチ数、広告価値換算額、SNS波及数、各媒体での論調分析)

取り組み3.プロモーションに関する相談窓口の設置

年間400 件ほどのペースで、プロモーション手法やターゲティングに関するアドバイス、チラシ・動画のデザイン、記者発表資料の添削を行っています。

取り組み4.各種研修の拡充

シティプロモーション推進室では、研修も拡充しており現在は主に4つが稼働しています。

  1. デザイン研修:市民に届きやすくわかりやすいクリエイティブを制作
  2. 出前講座:各部署からのオーダーにより出向、要望に応じた講座の実施
  3. 動画配信:10分×4本でデザインを学べるモーショングラフィックを組み合わせた動画
  4. ブランド研修:ブランディングの重要性認知、目指す都市ブランドを意識した発信の強化

プレスリリース活用術

横浜市のシティプロモーションの取り組みのひとつ「重点的に売り出したい事業のサポート」では、観光関係、経済関係(企業誘致や脱炭素など幅広い)の2軸で活動。各事業の担当者、責任者とともにつくり上げています。

担当者の協力

プレスリリースをつくるうえでもっとも大切なひとつが事業担当者からの情報です。横浜市ではプレスリリース配信のかじ取りはシティプロモーション推進室で行っていますが、事業担当者と連携し、3、4のブラッシュアップを繰り返しています。

  1. シティプロモーション推進室:プレスリリース配信の声がけ
  2. 事業担当者:記者発表のタイミングで文章案を作成
  3. シティプロモーション推進室:ブラッシュアップ、フィードバック
  4. 事業担当者:確認、加筆・修正
  5. シティプロモーション推進室:プレスリリース配信

シティプロモーション推進室が行うブラッシュアップ

メディアフックを意識し、主に手を加えているのはタイトルや画像を主に変更。繰り返し行うことで、庁内の事業担当者と一緒にスキルやマインドも醸成され、とても大切にしているフローだそうです。

横浜市役所さま投影資料2
登壇者関戸氏投影資料より

効果測定

参考にしているPR TIMESのダッシュボードの確認やヒートマップ。掲載件数のうち、どの程度PR TIMES経由か測り、ヒートマップでは、プレスリリースのどのあたりをよく見て、どの程度読了しているのかを確認しているそうです。

横浜市役所さま投影資料3
壇者関戸氏投影資料より

自治体の広報PRに大切なステップと体制づくり

自治体こそ広報PRが必要である、というメッセージが何度もでてきたセミナー。

自治体が今やっておきたい広報活動を解説|住民に伝わる広報誌とメディアにひびくプレスリリース」に続き、奈良市、横浜市の取り組み事例を踏まえて紹介しました。

<奈良市役所から学ぶポイント>

  • 取り組みと広報PRは必ずセットで行う
  • 自治体だけで訴求できないときは、ゲストハウスオーナー、アンバサダー、ふるさと納税事業者……周囲を巻き込む

<横浜市役所から学ぶポイント>

  • データに基づいた企画とPDCAサイクルを徹底してまわす
  • 事業担当者と協力、体制からつくっていく

「これからは広報PR活動を強化したい」「現在、情報発信に取り組んでいるものの、うまく伝わっていない」と感じている自治体の方が今日から実践できるノウハウが見つけられたのではないでしょうか。

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この記事のライター

丸花 由加里

丸花 由加里

PR TIMES MAGAZINE編集長。2021年、PR TIMESに入社し、「PR TIMES MAGAZINE」、ご利用企業向けのコミュニティイベント「PR TIMESカレッジ」の企画・運営を行う。2009年に新卒入社した大手インターネットサービス運営会社では法人営業、営業マネージャーとして9年半、その後オウンドメディアの立ち上げに参画。Webコンテンツの企画や調査設計に携わる。メディアリレーションズを主とした広報を経て、現職。

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