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情報加工が得意なChatGPT。クリエイティブの量産が可能に|東京大学松尾研究室・上田氏-前編-

「広報PRにおけるChatGPTの影響」への見解をお伺いするこの企画。基礎研究により「知能」を作り、最先端の技術を社会へと実装することをミッションとする、松尾研究室(通称:松尾研)の上田さんにお話いただきました。この記事は、前後編でお届けします。

広報PR活動の中で、浸透していくだろうChatGPTの活用について。どのような業務で親和性が高いのでしょうか。

東京大学工学系研究科 技術戦略学専攻 松尾研究室 株式会社 松尾研究所 社長室・経営企画

上田 雄登(Ueda Yuto)

東京大学工学系研究科 松尾研究室の修士課程を2016年に卒業後、コンサルティングやPE投資を行う株式会社YCP Japan(現 株式会社YCP Solidiance)へ新卒第1号として入社、経営コンサルティングに従事。2021年から松尾研にジョインし、経営企画を担当している。新規技術の社会実装についての戦略策定や社内事業の改善に従事。

AI研究を行う松尾研究室について

松尾研では、基礎研究・社会実装・人材育成の3つのミッションを掲げています。基礎研究ではDeepLearningを始めとしたAI技術の研究開発を行っており、社会実装ではそれらの技術を用いて企業様にソリューションを提供しています。また、人材育成ではDeep Learningの実践的な講義や、起業のためにアントレプレナー教育にも力を入れています。

正確さよりもクリエイティブに浸透

まず、広報PR業界に対する影響。世の中で言われていることと重複すると思いますが、「正確な内容が重要となる領域」よりも「クリエイティブに案を出していく領域」から導入が進んでいくのではないかと思います。

例えば、広報PR業界の中で「クリエイティブに案を出していく領域」を想定すると、テーマが与えられ、そのテーマに沿って記事を構成していくような業務ですね。ChatGPTの一部はWebで使用できますので、こういった領域に関しては、実際に記事を出稿している企業さまでも導入が始まっていると推察しています。また、単純に高精度な壁打ちをできる相手が生まれたということでもあると思っています。よく、「広報PR担当者の人員削減」「コスト軽減、効率化」などと言われていますが、それらはすぐにできるものではありません。それよりも広報PRにおいて初心者の方でも一定のクオリティを出せたり、非常に専門的な分野の話を一般の方にわかりやすく伝えたりするための構成にしていくなど、これまでの業務に対するクオリティの向上が見込めるのではないでしょうか。

ChatGPTでプレスリリース情報を容易に加工

「会話ができる」「相談できる」という認識が広まっていますが、「情報の加工ができる」が正しい認識かと思います。

  • 仕入れ:直接はできないため、データベースから必要なデータを集め、プロンプトに入れる
  • 加工:プロンプトに入れられた情報を参照し、指示に従い加工/変換する
  • 流通:インターフェースを人に流通させる(インターフェースが変わる)
    (流通の例)PDF送付で読まれない情報を会話で説明・伝播させる
松尾研究所 上田 雄登氏作成資料より
松尾研究所 上田 雄登氏作成資料より

大規模言語モデル(LLM)を自社で作る難度は高いため、プロンプト※1の設計(どのような情報を入れるか)が重要になってきます。

また、プロンプトの中に入れた文脈情報※2を元にして指示を与え、最終的なアウトプットを得る領域への導入も広がっています。発表されたプレスリリースを使ってさまざまなことが容易にできるため、例を挙げて見てみましょう。

  • Twitterで投稿するための文言を作る
  • ターゲットを広く設定した一般的な内容から若年層向けの内容に変換する
  • 金融業界など特化した分野を指定して、その分野に対する影響をまとめる

これらの例は、ターゲットを切り分けているのですが、情報を加工していくようにひとつのコンテンツから表現の仕方を変えていく、ということが可能です。

「整える」という行為も加工の一種。加工して、出力するということを考えると、ChatGPTを用いて制作を終えたテキスト情報を校正することなども、もちろん可能です。その加工の仕方が、いろいろな指示によって方向づけることができるのかな、と思っています。

※1 プロンプト:大規模言語モデルに入力されるテキストデータ。文脈情報を除いた指示のみを指して用いられる場合もある。

※2 文脈情報:大規模言語モデルに参照させたい情報がある場合に、プロンプトに挿入したテキストデータ。

届けたい対象に合わせた内容に拡充

プレスリリースの内容(文脈情報)と合わせて以下のような指示を入れます。そうすると、プレスリリースの情報を下敷きとして、指示に従って目的に沿った提案をいくつかしてくれます。

  • 企画内容:兵庫県神戸市で開催されるいちごのスイーツビュッフェ
  • 目的:スイーツビュッフェの参加者を増やすこと
  • ターゲット:関西の20代30代のカップル、もしくは家族連れ

可愛らしいいちごのスイーツを撮影、クーポンなどパッケージプランを提供、参加者の声を入れてみる……など、人間はそれらの提案からどれにするかを選び、追加したい情報を加えた新たなプレスリリースを作ってもらうこともできます。すでにWebでもできますし、API(Application Programming Interface)を使っても可能なので非常におもしろいと思っていますね。

プレスリリースは多くの場合、硬い表現も多いと思うのですが、指示に従って読ませる文章にしてみたり、プレスリリースの内容を複数使用してYouTubeの解説動画みたいにしたり。広報PR担当者が発信しているさまざまな媒体に合わせて、内容を変えることができるかなと思います。

WebとAPIの違いについて
Webは簡単に触れるOpenAIが公式に提供しているChatGPTの公式サイト、APIはOpenAIが提供しているプログラムからChatGPTなどを呼び出すためのインターフェースです。Webでは基本的に無料で使用できますが細かな設定や情報を検索して挿入するなどの統合ができません。一方で、APIでは細かい設定をしたり、ほかのツールと組み合わせたりすることができますが、有料です。従来はWeb版では入力した情報がOpenAIの学習に使用されてしまいましたが、2023年4月25日に入力情報を学習に使わせない設定が可能になりました。

最適な専門性と情報量を選定

広報PR活動の中では日頃から、専門性をどこまで強くするかという議論があるのではないでしょうか。おそらく担当者の元には、プレスリリースの材料となる膨大なデータが裏側にあり、それらをどこまで出すか。出しすぎてはわかりづらいし、出さなすぎると伝わらない。

一度アウトプットされた内容から「ターゲットを変えて作り変える」という話をしましたが、ターゲットごとのスイートスポットに合わせ、裏側のデータを用いて「専門的に書く」「小学生でもわかるよう書く」ということが、最初からできるようになると思います。非常に価値が高い活用ではないでしょうか。

また、広報PR活動を行う際に、必ず含めたい情報、絶対に含めたくない情報があるのではないかと思っています。そのようなルールを事前にChatGPTへ文脈情報として与えておくと、この部分は注意が必要である、あるいはこういう情報を入れるべきである、という情報のレビューを行うような場面でも導入が始まってくるのではないでしょうか。

原材料自体がすでにあるプレスリリースをはじめ、人間自身が作ったものとAI(人工知能)と共同で作ったものを加工する、というユースケースが出てくると考えています。

松尾研究室の上田さんインタビュー01

AIに役割を与え、人間に対する指示と同様に

特別なことではないですが、「あなたは非常に優れた広報のスペシャリストです」などと役割を与えることは非常に重要だと考えています。簡単な指示をしても、ある程度は求める内容で返してくれますが、例としてPR TIMESに公開された情報からテキストだけコピーして入れてみたものをお見せしますね。

「あなたはファクトチェックを行うために設計された、厳密かつ公正で優秀なAIです。下記の文章から、ファクトチェックするべき項目を網羅的に抽出して箇条書きで列記してください。」

こちらが指示に当たる部分になるのですが、すぐに「この項目をチェックすればよい」と回答が出てきます。

役割付与のパターン全体を見る

役割を付与しないパターン全体を見る

このようなプロンプトの指示をしっかりと設計していくことが必要になるわけです。普通のプログラミングとは異なり、自然言語で人間に指示するものに近いんですね。各社で試していく中で、それらがアセットになっていくと思っています。

あとは、「わかりやすく書く」。これに尽きると思いますね。AIだからと言って、適当に書く場面があるのではないかと思いますが、人間に指示するように、それこそ新卒一年目の方にわかりやすく説明するような意識が非常に重要です。

松尾研究室の上田さんインタビュー02

ChatGPTは人間社会のコミュニケーションを反映

「ありがとうと伝えることが大切」など、お礼や感謝を伝えることで精度が上がるのか、という話もあります。しかし、イントラクションの中で「ありがとう」というと精度が上がるということは、研究レベルではあまり言われていません。現段階では、ChatGPTを使っている方が感覚的にそうだと言っているだけではありますが、これから研究が進む中で攻撃的に伝えるよりは、好意的に返す傾向はありかもしれない、という程度ですかね。

ひとつ言えることとしては、ChatGPTの大規模言語モデルの仕組み自体が、世の中に大量にあるテキストから次にどういう単語が出てくるかを学習し、予測するものです。おそらく、実際の人間のコミュニケーションは「ありがとう」を伝えると、好意的に返ってくるケースが多いでしょう。例えば「全然ダメだよ」と言うと、実際の人間のコミュニケーションとしてもあまり良いものになっていかないですよね。世の中のテキストからChatGPTは学習しているので、ChatGPTは社会を反映すると思っていただくとわかりやすいかと思います。

後編:AIに選ばれるための競争、人間の役割|東京大学松尾研究室・上田氏-後編-

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この記事のライター

丸花 由加里

丸花 由加里

PR TIMES MAGAZINE編集長。2021年、PR TIMESに入社し、「PR TIMES MAGAZINE」、ご利用企業向けのコミュニティイベント「PR TIMESカレッジ」の企画・運営を行う。2009年に新卒入社した大手インターネットサービス運営会社では法人営業、営業マネージャーとして9年半、その後オウンドメディアの立ち上げに参画。Webコンテンツの企画や調査設計に携わる。メディアリレーションズを主とした広報を経て、現職。

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