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SNSで話題沸騰!スイカバッグの発表に学ぶ、土屋鞄製造所の「やりきる」発信力

SNSやPR TIMES上で話題になったPR事例の裏側に迫る本連載。今回フォーカスするのは、革製品の企画製造販売を手がける株式会社土屋鞄製造所さんの施策です。SNSや各種メディアで話題となった「スイカバッグ」など、「『運ぶ』を楽しむ」シリーズの企画をご担当された販促チームの山田さんにお話を伺いました。

土屋鞄製造所_スイカバッグ

同社の職人さんが技術力や知識を生かして、自分だけの運びたい鞄を考えるという「『運ぶ』を楽しむ」シリーズ。  2020年7月に発表した「スイカ専用バッグ」は、非売品であるにもかかわらずTwitterで1日に約1万リツイートと約2.8万の「いいね」を獲得し、SNS上で大きな話題に。1年後に11万円で個数限定販売したところ、約2週間で完売に至りました。

現在このシリーズは第四弾まで展開されており、ユーザーから好意的な反響を得ています。この施策の裏側に込められた意図について聞きました。

株式会社土屋鞄製造所の最新のプレスリリースはこちら:株式会社土屋鞄製造所のプレスリリース

土屋鞄製造所 販促チーム

山田 智子(Yamada Tomoko )

2012年、土屋鞄製造所へ入社。販促企画、広報、商品企画などを経て、現在は、土屋鞄ランドセルや大人向け皮革製品ブランドのプロモーション全般を統括している。コロナ渦では、土屋鞄公式Instagramのインスタライブにて、商品や革製品のお手入れ方法などを定期的に配信中。

ものづくりの楽しさを伝えるために

── 土屋鞄製造所さんといえば、ランドセルの会社さんというイメージを強く持っていました。そんな中、2020年7月に発表された「スイカを運ぶ専用のバッグ」は、衝撃的でした……!

山田:ありがとうございます。おかげさまでSNSでの反響のほか、たくさんのメディアにも取り上げていただきました。

新製品の発表の際にはファッション系のメディアにご紹介いただくことが多いんですが、このときはテレビなどからも取材していただき、いつもと違う層の方々にも情報を届けられたという実感があります。また、海外のメディアからのお問い合わせも寄せられました。

── この「『運ぶ』を楽しむシリーズ」、スイカバッグ以降も新しいバッグを生み出し続けていますよね。

はい。2020年12月には第二弾として「雪だるまを運ぶ」、2021年2月には第三弾の「ワイングラスを運ぶ」、同年10月には「水切り石を運ぶ」をテーマに、当社の職人が想いを込めて作り、発表しました。実際に販売したのはスイカバッグとワイングラスバッグの2点ですが、どちらも好意的な反応をいただいています。特にスイカバッグは、販売年の2021年にかけて21個限定でご提供したところ、約2週間で完売に至りました。

土屋鞄製造所_バッグ
「『運ぶ』を楽しむ」シリーズの商品。左から、雪だるま専用バッグ、ワイングラス専用バッグ、水切り石専用バッグ、スイカ専用バッグ

── どのような背景で生まれた企画だったんですか?

お客様に喜んでいただける企画を考える、という意味では以前から色々な施策を実施していたんです。振り返ると、既存のお客様とのコミュニケーションは2005年頃からメルマガをスタートし、15年ほど前からSNSも活用するようになりました。起点となったのは、2012年のエイプリルフールの時に実施した「パティスリーツチヤ」という企画でした。

土屋鞄製造所SNS
https://www.facebook.com/tsuchiyakaban/photos/a.295724220445715/393158144035655/?type=3

── これ、まさか……。

そうなんです、このケーキは全て革で作られているんです。ここでお客様に喜んでいただけたことから、定期的に、職人の技術力と遊び心を伝えることで「ものづくりの楽しさ」をお伝えする企画を考えてきました。その延長線上で今回の「『運ぶ』を楽しむシリーズ」が生まれたんです。

この「革ケーキ」を作った頃は「革を細工してお客様に喜んでいただく」というコンセプトだったのですが、2019年頃から、素材として革を用いるだけでなく、今まで培ってきた技術や知識、日本人ならではの感性をもっと全面に出して作り手の想いを伝えていこう、というアイデアやテーマを追加しました

── 作り手の想い、ですか。 

はい。当社には10代から70代に至るまでものづくりが好きな人が集まっています。この「革ケーキ」を見てもわかるように、何かを作って誰かに喜んでもらいたいという人がたくさんいるんです。

そんな作り手たちに光を当てたいと考え、このシリーズでは特に若手の職人たちのアイデアにフォーカスしました。土屋鞄では「職人の技術の継承」を昔から大切にしています。そのためには若手職人の育成が必要で、20年ほど前から若手職人の採用も少しずつ行っていました。今では、若手職人が増え、土屋鞄のモノづくりを担う重要な要素になっています。

また、若手職人が多いからこそ、革のケーキや蝶ネクタイなど、ちょっとした遊び心のあるアイテムが生まれてきたのも事実です。

そういった背景があり、フォーカスしました。当時は新型コロナウイルスの影響で東京都に初の緊急事態宣言が発出されるなど、心休まらない状況が続いていた時期。だからこそ、ものづくりを通したわくわく感やときめきをお伝えしたい、という気持ちで始まったのがこの企画でした。

「『運ぶ』を楽しむシリーズ」以外にも、お子さまと一緒にオリジナルかばんを考える「こんな鞄があったらいいなシリーズ」なども展開中です。このシリーズでは花束を入れるためのバッグや、兜に変形する鬼退治専用バッグなどを作りました。

土屋鞄製造所_取材1
※写真右は広報担当の山登さん

非売品のプレスリリースだからこそ、こだわりをふんだんに

── 非売品のものづくりとそれにまつわる発表。市場調査やマーケティングに活用しようといった視点はあったのでしょうか? 数値目標などは設定されていたのでしょうか。

正直に言って、そういった視点はほとんどないんです……。あくまでも「ものづくりの楽しさを伝える」ということにフォーカスした結果、自然に生まれた企画で。そこから職人に声をかけて、1人ずつ巻き込んで実現しました。

── 社内からはどのような反応がありましたか? 

スイカバッグに雪だるまバッグなど、最初は「本当に大丈夫?」という声もありましたが、全体的に見ると好意的な声が多かったですね。とにかくまずは形にしてみることが大事だったと思っています。

費用対効果や数値の達成目標などを細かく考えていたら、もしかしたらこの企画は成立しなかったかもしれません。職人の「本気の遊び心」が引き出せなかったかも。「やってみて、うまくいったら続けていこう」というくらいの気持ちでスタートしたものだったので、それが功を奏したともいえるかもしれませんね

土屋鞄製造所_取材2

── どのような体制で企画されましたか。

当社には現在600名ほどのメンバーがいて、「つくる人」と「伝える人」に分かれています。その「伝える人」の中で、SNS発信やメルマガ、広報など、社外向けの情報発信を考えているのが私が所属する販促チームです

当社ではカメラマンやコピーライターも社内にいるので、そういった人たちを合わせると30名くらいの体制になります。

── プレスリリースの作成時に気をつけたことはありましたか。

実は非売品の「企画モノ」でプレスリリースを出すのは「『運ぶ』を楽しむシリーズ」が初めての試みでした。以前は新製品のご案内などはプレスリリース、それ以外の企画はSNSやメルマガでお届けする、という使い分けをしていました。でも今回は、まだ土屋鞄を知らない層の方々にもこの取り組みを通じて私たちについて知っていただきたいと考え、プレスリリースを出すことに

単に「おもしろバッグ企画」という切り口でこの企画を捉えられてしまうことは避けたかったので、素材選定や使用する技術など、細部へのこだわりを詳細に伝えることを重視しました。製造工程の写真を何枚も掲載し、ポイントをとにかく真面目に書いて……そのため、非売品なのに、このプレスリリース、すごく文章量が多くなりました。

※参考『運ぶを楽しむ』シリーズのプレスリリース
・スイカ専用バッグ
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000205.000007557.html
・雪だるま専用バッグ
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000222.000007557.html
・ワイングラス専用バッグ
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000228.000007557.html
・水切り石専用バッグ
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000258.000007557.html

切り口が決まったらとにかく「やりきる」

土屋鞄製造所_取材3

── 土屋鞄製造所さんは、コーポレートサイトもオウンドメディア化されているなど、社内の情報を上手に発信していらっしゃる印象を受けます。どんなことを心がけていますか。

製品のことや技術のこと、人のこと、歴史のこと、お客様への想い。伝えていきたいコンテンツは数え上げるとキリがないですね。全てが土屋鞄の資産なのですが、それらをどう魅せていくかが一番難しい。ここでもやはり気にしているのはシンプルですが「お客様はどう思うのか?」という視点です。必然的に「どんな切り口で伝えれば、より魅力的な情報としてお伝えできるか」をいつも考えているように思います。

土屋鞄製造所_コーポレートサイト
土屋鞄製造所のコーポレートサイト

── お客様にとって魅力的な情報かどうかはどのようにして考えられましたか。

様々な視点から情報を集めて、お客様の視点をできるだけ意思決定に反映させるようにしています。当社は商品を卸売ではなく、直販しているため、そもそもダイレクトに情報が入ってきやすいです。それに加えて、店舗に出向いてスタッフと会話したり、CSスタッフに情報を共有してもらったり。お客様からのレビューやSNS上でのコメントにも、「切り口」のヒントは詰まっています。特に、普段店舗に立つことのない広報メンバーとしては、直接コミュニケーションをとることができるインスタライブはとても勉強になりました。

切り口が決まれば、あとはやりきるだけ。この「やりきる」というところがポイントの一つかもしれません。

「時を超えて愛される価値をつくる」というのが土屋鞄の全社のミッション。これを達成するために、様々な手段を使って記憶に残る体験を提供することが私たちの役割です。だからこそ常に最初にあるのは「お客様はどう思うのか?」という視点です。そこを忘れず、自分たちが良いと思ったことを信じて、その点で突き抜けることを意識しています。

── 「やりきる」「突き抜ける」ですか。「『運ぶ』を楽しむシリーズ」では具体的にどのような点を意識されましたか。

お客様にお伝えする新商品情報などのコンテンツとは違う目線でメッセージを検討しました。メディアの方に面白いと思ってもらえるか、タイトルが思い浮かぶようなキャッチフレーズになっているか、情報として価値があると思っていただけるかなどを意識しました。スイカバッグの発表は「スイカの日」に合わせるなど、タイミングも考慮しました。

また、この企画はどちらかというとウェブメディアSNSで取り上げていただくような流れをイメージしてプレスリリースを作成しました。そのためにSNSでは特に「画」を重要視。一目で分かりやすい、面白い、と思っていただけるものを選びました。

── ほかに、企画を進める上で気をつけていたことなどはありますか。

日頃から色々と言い合える雰囲気を作り、本音で議論できるようにすることでしょうか。「本当はみんな、何がしたいの?」と意識的に問うようにしていました。例えば第二弾の雪だるまバッグのとき。実は、別の企画に進みそうだったんですよ。もっと無難なアイデアにおさまってしまいそうで……。それで、「本当にそれでいいの?」「本当は何がしたいの?」と改めて全員に尋ねたところ、ボツになりかかっていた「雪だるま」がいいよね、となったんです。こういう企画はやはり、少人数の方がアイデアがたくさん出て盛り上がりますね。ですから、あまり大人数の議論にならないようにということも心がけました。

── もし、この企画を始めた頃のご自分にアドバイスをするとしたらどんなメッセージを贈りますか。

繰り返しになりますが、頭で考えすぎるよりもまず、やってみることですね。自分から行動してみて、相談してみて、それから次の手を考える。そうすることで道が拓けてきて、次にどうすればいいかが見えてくると思います。

土屋鞄製造所_取材4

── ありがとうございました!

今回のPR事例ポイント

  • 数値目標がないから自由な発想ができた
  • 「お客様はどう思う?」徹底的な顧客視点で常にアイデアを見直す
  • 突き抜けた企画を生み出すのは本音のコミュニケーションと「まずやってみる」行動力

インタビュー前後で、こんなにもプレスリリースへの印象が変わったのは土屋鞄製造所さんが初めてかもしれません。企業としての遊び心をたっぷり感じさせながら、季節感や話題性も盛り込んでいく、いわゆる「定石通り」なPR。さぞかし狙いすまして打ち上げた企画なのだろうと思いきや、その裏側にあったのは「数値目標もマーケティングも関係ない」という、愚直なまでの顧客視点でした

広報やPRをはじめとするコミュニケーション施策は、企業活動の一環である限り目に見える「成果」に意識が向いてしまうもの。そうなるとどうしても、発信する情報は自社視点に偏ってしまいます。

自社の顧客に寄り添う。顧客にとって嬉しいことをする。そんなシンプルな活動こそが、信頼構築の第一歩であり大前提なのだと改めて気づかされました。

(撮影:原 哲也、取材はリモートで実施しました)

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この記事のライター

青柳 真紗美

青柳 真紗美

ビジネス書の編集者から広報PRパーソンへ。AI系スタートアップや不動産テック企業のPRなどを経て、現在フリーランスで広報・PR支援をしています。メディアリレーションからオウンドメディアの編集まで「コミュニケーションを考える」のが大好物。特にニッチ領域のサービス・プロダクトが好き。「みんなが嬉しい広報・PR」をモットーにその企業の「らしさ」を届け、ファンを増やすお手伝いをしています。

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