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「正直な個人」が人を動かす。二段構えの新商品発表に学ぶ、手段に捉われない発信活動

SNSやPR TIMES上で話題になったPR事例の裏側に迫る本企画。記念すべき第一弾は、株式会社シューズセレクションさんのこちらのプレスリリースです。
“ビニール傘並みのお値段”の折りたたみ傘「GO!GO!UMBRELLA」 2020年1月24日(金)より販売開始

「環境問題に配慮した傘メーカーとしての提言」の側面が強い本プレスリリース。目を引くメインビジュアルやデータの見せ方などお手本となるエッセンスが詰まっています。

ただ、最も特徴的だったのは、プレスリリースと同時に、この発表に対する「想い」を坂口さん個人のnoteに投稿したこと。SNSなども通じて自ら拡散を呼びかけました。

この取り組みが功を奏し、プレスリリースとnote合わせて1万PV以上のアクセスが集まったそう。そんな注目の発表はどのようにして生まれたのでしょうか。中心人物である坂口さんに伺いました。

株式会社シューズセレクションの最新のプレスリリースはこちら:株式会社シューズセレクションのプレスリリース

株式会社シューズセレクション 取締役 COO

坂口 淳一(さかぐち じゅんいち)

Web企業3社でディレクターやプロダクトマネージャーを経て、2018年10月から国内最大シェアを誇る傘メーカーである株式会社シューズセレクションに入社。2018年12月よりCOOに就任。主に業務企画・在庫管理・システム管理など幅広く見つつ、必要に応じて広報を担当。プライベートでコミュニティやイベントを運営。学びや気づきをTwitterやnoteで発信。1988年生まれ。

株式会社シューズセレクション_色とりどりの傘が天井に展示されている

他社のプレスリリースは参考にしなかった

―プレスリリースの反響はいかがでしたか?

今までの当社のプレスリリースと比べてもかなり良い反響でしたね。小売店さんへの営業時にも話題の商品だと示すことができ、新たに扱ってもらえるようになったり、個人の方から「ケース単位で買いたい」という問い合わせをいただいたりもしました。

―「ケース単位で買いたい」、それは嬉しいですね。坂口さんは広報の専任経験がないそうですが、企画を進めるにあたって参考にしたプレスリリースなどはありましたか?

実は、他社さんの報道発表などは参考にしませんでした。

―そうなのですね!では、「野生のカン」でこの施策にたどり着いたと……?

あはは(笑)。「野生のカン」というよりは、これまで自分が向き合ってきた「インターネット上の情報発信」の経験の積み重ねから、という感覚ですね。

株式会社シューズセレクション_坂口 淳一_200033001

―では、どうしてプレスリリースとnoteで発信しようと考えたのでしょうか?

今回の商品は強いメッセージ性を持つものだったので、商品自体を知ってもらうだけでなく、心を動かしたかったんです。そのためには「情報の羅列」だけでは足りないと思い、noteとの合わせ技で進めようと決めました。

プレスリリースは企業の公式情報を伝えるのに適した手段。noteは、ソーシャルグッドなメッセージの発信にマッチした世界観を持つ媒体です。ですから企業として発信する、説得力のある「左脳的」な情報はプレスリリースに。個人として発信する、共感してもらうための「右脳的」な情報はnoteに、と使い分けました。

株式会社シューズセレクション_坂口 淳一さんのnote
坂口さんが発表と同時に投稿したnote

―広報の現場では公式発信が多いため「個人として語る」側面が逆に弱くなってしまうことも。この手法だと会社と個人、両者のメッセージをバランスよく発信できますね。

私が役員というポジションなのも大きいかもしれません。

Twitterやnoteのアカウントに会社名も入れていますし、普段から仕事に関連した発信もしています。役員だから、「会社としての(公式な)メッセージ」としても受け取ってもらえるし、個人としての想いも載せられる。だからこそ実現できたのかもしれません。

役員に限ったことではありませんが、会社を代表する個人が発信することで、より影響力をもてるのかな、とも思います。

外部ライターとのディスカッションで訴求ポイントを言語化

―プレスリリースは坂口さん自ら作成されたのでしょうか?

私がディレクションをして、原稿は外部のライターさんに執筆してもらいました。ディスカッションを通して、自分では気づかなかった「ビニール傘並みの価格」という表現が生まれたり、背景情報を整理できたりしてよかったです。

アイキャッチ画像やインフォグラフィックは、デザイナーに作ってもらいました。もともと店頭に並べることを意識して「映える」ことを狙って作ってもらったのですが、結果的にウェブ上でも目を引きましたね。

アイキャッチに活用した店頭で使うために作成した素材
店頭で使うために作成した素材をアイキャッチに活用
折りたたみ傘をよく使う人の割合を傘を用いた円グラフで表現
傘を円グラフに用いたインフォグラフィック。かわいい!

―プレスリリースが話題になることは想定していましたか?

はい、ある程度までは。前提として、日用品のプレスリリースって難しいんです。どんなに差別化要素を出しても「他にもある」と思われて、個性を出しにくい。

でも今回の企画はストーリーやコンセプトが強かったので、しっかり伝えられれば多くの人に共感してもらえるだろうという予感はありました

―ライターやデザイナー以外に企画に関わった方はいらっしゃいますか?

プレスリリースの原稿は、発表前に社長に確認してもらいました。でも、noteは完全に私の独断です(笑)。

フォロワー数よりも「普段から正直であること」が大事

―少し答えにくいかもしれませんが、坂口さんだからこそできた施策、とも言えるのでしょうか。フォロワー数が多かったから、とか。

うーん……。確かに日頃から情報発信は積極的に行なっています。ただ、それよりも重要なことって「普段から正直であるか」ではないかな、と。

インターネット上での発信力が強かったとしても、宣伝や広告ばかりだったら「また何か売ろうとしているな」と、穿った目で見られてしまうことすらあります。

「正直な個人」の発信は、インパクトを持って広がっていく可能性があることを今回再認識しました。

株式会社シューズセレクション_坂口 淳一_200033002

―プレスリリースを発表して1週間後に、振り返りnoteも書かれていたのが印象的でした。

自分としても成功体験だったので、書くことで振り返って再現性を高めたかったんです。二段構えで書かれたnoteはあまり見たことがなかったので、だれかの参考にはなるかなと。

とくに「シェアをお願いする」というのは、かなりキーになったと思っています。何をしてもらいたいのかを明確に書いたことで、共感いただけた方に行動を起こしてもらえた部分もあるでしょうね。

企画の段階から「見せ方」を意識する

―そもそも、今回のプレスリリースはなぜ坂口さんが手がけられたのでしょうか? 

当社には専任の広報担当者がいないので、広報業務は私や事業の担当者が兼務して対応しています。

今回は、当社が昨年から注力している「たたむ、をひろげるプロジェクト」の一環。企画には当初から携わっていたので、自然と私がやることとなりました。

―当事者として進めてきた内容だからこそ、発信できることもあったのかもしれませんね。

モノづくりの現場にはいろいろなこだわりがあります。それを発信し、伝えるという点においてはまだまだ伸びしろがあると感じています。

店頭で見たことはあっても、インターネット上で存在感がない商品は星の数ほどあります。

インターネット上では、コンセプトのわかりやすさや第一印象のインパクトが重要です。商品の特性も理解した上で、見せ方を意識して「どこをわかりやすく尖らせるか」という視点を経営者が持つ。すると商品企画の段階からPRを意識して進められるので、情報発信やブランディングはスムーズになるかもしれません。

そういう意味では、今後もいろいろな切り口で新しい共感ポイントをつくっていけたら面白いですよね。たとえば、新たな購入動機を作る。今は多くの方が、雨に濡れないという「機能」を得ることを目的に傘を買います。でも、デザインで買うとか、お土産に買うとか、「買う」までの文脈をつくることでゲームチェンジが起きるのではないかと。

株式会社シューズセレクション_坂口 淳一_200033003

―いわゆる「ナラティブ・アプローチ」ですね。
企画段階からPR視点を持ち、担当者が自分の言葉で情報発信できれば、広報専任者がいなくとも十分なPR活動が行えそうですが……。

世の中の流れを見ていると、広報担当者は「会社の情報発信をする人」という役割から「会社の編集者」という役割に変わりつつあるように感じています。社内のヒトや商品の情報をキュレーションして世の中に伝える、とか。

もちろん、メディアとの関係構築や、公文書をわかりやすくまとめて発信するという役割も必要です。でも、今は個人の発信も大きな影響を持つ時代。それらをうまく引き出したり、まとめたりしながら、横断的に会社の魅力を発信していくことも求められていくのではないでしょうか。

例えば当社には「傘ソムリエ」と呼ばれる社員がいて、YoutubeチャンネルTwitterアカウントを開設しています。フォロワーが何万人もいるわけではないけれど、内容が濃くて「好き」だという気持ちが伝わってくるんです。

個人の情報発信って、強制したところでどこか違和感が生まれてしまうもの。だから、会社として認めているよ、という姿勢を見せることで、「発信していいんだ」「正直に伝えていいんだ」と実感してもらう体験を積み重ねることが大事かもしれません。

「想いは伝えよう」。傘が楽しくなれば天気が楽しくなる

株式会社シューズセレクション_坂口 淳一_200033004

―最後に、情報発信に奮闘する人へ、坂口さんが一番伝えたいことを教えてください。

うーん……「想いは伝えよう」、ということですかね。

現場にはこだわりや想いが必ずあるので、手段に捉われすぎずに伝える手法を考えることが大切です。

傘も「どれも同じように見える」と思っていても、細かく聞くとこだわりがあります。そうした情報を発信することで、生活者も選ぶのが楽しくなるはず。傘が楽しくなれば天気が楽しくなる、と私は思っています。


取材後の雑談の中で「個人的には、何かを生み出す人はみんなコンプレックスやドロドロしたものを持っているんじゃないかと思います(笑)」と語ってくれた坂口さん。書くことで自己分析や内省をしてきた期間も長かったとか。

そんな坂口さんだからこそ「自分の言葉で伝える」ということを大切に考えているように感じました。会社として、オフィシャルな情報を伝えようとするとどうしても形式にとらわれがちですが、「想いを伝える」という原点に立ち返ると、新たなコミュニケーション手法が見えてくるかもしれません

(撮影:矢野 拓実)

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この記事のライター

青柳 真紗美

青柳 真紗美

ビジネス書の編集者から広報PRパーソンへ。AI系スタートアップや不動産テック企業のPRなどを経て、現在フリーランスで広報・PR支援をしています。メディアリレーションからオウンドメディアの編集まで「コミュニケーションを考える」のが大好物。特にニッチ領域のサービス・プロダクトが好き。「みんなが嬉しい広報・PR」をモットーにその企業の「らしさ」を届け、ファンを増やすお手伝いをしています。

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