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リスクコミュニケーションとは?意義・実施するステップ・成功の4つのポイントを解説

近年、企業規模の大小を問わず注目されている「リスクコミュニケーション」。災害や不祥事などのリスクに対して、企業がどのような備えをするのかを提示し、ステークホルダーと信頼関係を築くための取り組みです。

本記事では、リスクコミュニケーションについて詳しく解説をしていきます。リスクコミュニケーションの意義や類似する言葉の違い、実施するときのステップなどを紹介していますので、ぜひ参考にしてください。

リスクコミュニケーションとは

リスクコミュニケーションとは、企業が特定のリスクに関してステークホルダーとの相互理解を深めるためのコミュニケーションのことです。具体的なリスクとは、地域開発における環境汚染リスク、新規工場設立による周辺住民の安全や健康に対するリスク、農作物の残留農薬による健康リスクなどがあります。

リスクに対して専門的かつ科学的な立場から、具体的なリスクの内容、発生確率、リスク低減に向けた措置などを決定し、必要な人たちと共有し相互に意見交換などを行うのが一連の取り組みです。有事に備えて平常時から適切なコミュニケーションを取ることで、発生しうるリスクやその管理に対して納得してもらい、不要なトラブルを避けることにつながります。

リスクコミュニケーションは双方向性であることが望ましいとされていますが、ホームページを通じた情報発信などの一方向的なものも広い意味でのリスクコミュニケーションに関する取り組みに含まれています。

リスクコミュニケーションを実施する意義

どのような企業であっても、事業を行うときにはあらゆるリスクを伴うのは必然です。リスクコミュニケーションは、大小に限らずリスクの影響を受ける可能性があるステークホルダーに、あらかじめ発生する可能性があるリスクについて合意を得るために行います。リスクコミュニケーションを行うべきステークホルダーは幅広く、周辺住民や従業員を含む個人、行政機関、労働組合などです。

リスクを発生させる可能性がある企業がステークホルダーを説得したり、一方的な情報発信を行ったりするものではありません。企業がリスクの可能性について共有しようとするときには、おそらく反対や議論が起こります。それらの意見に対して、企業とステークホルダーがともにリスクにどのように対処していくべきなのかを検討することがリスクコミュニケーションを実施する意義です。企業側の安全に向けた姿勢を示しステークホルダーの安心を得るために、意見交換などを通じて信頼構築を目指します。

リスクコミュニケーションと似た言葉との違い

企業活動におけるリスクや危機への対策や準備は、リスクコミュニケーションのほかにもあります。すべて、リスクや危機に関する情報をステークホルダーへ伝達するために使われる手法やアプローチですが、それぞれが異なる目的や手段によって行われるものです。同じような言葉でも内容は異なり、リスクや危機への対策として複数の手段を使用することもあります。

ここでは、クライシスコミュニケーションリスクマネジメントリスクアセスメントリスク分析危機管理について、どのような活動なのかを説明します。

とは?

クライシスコミュニケーション

クライシスコミュニケーションとは、事件・事故、自然災害、テロなどの緊急事態の発生に対して行うコミュニケーションです。緊急事態による自社の被害を最小限にとどめることを目的に実施します。具体的な活動内容は、発生した事象、経緯、今後の対策などをまとめた情報開示、謝罪会見などです。

活動の中で特に重要になるのが、生活者へ情報を広く伝えるメディアとの関係づくりや対応です。情報発信での誤解をうむ表現や失言、情報の隠蔽などは、ネガティブな印象を与えて事態を悪化させることにつながる場合があります。被害を最小限にとどめるどころか、さらなる炎上を招くことになるかもしれません。平常時以上に冷静かつ客観的な視点で情報発信を行うことが重要です。

リスクマネジメント

リスクマネジメントは、企業活動の中で起こりうるリスクを事前に把握し回避するためのものです。リスク発生によって自社に起こりうる損失を最小限に抑えることを目的としています。リスクにもさまざまな種類があります。

例えば、事件・事故、自然災害、テロなどによって事業存続ができなくなる、自社の過失による法的賠償責任の発生で利益が減少するなど、経営や利益に直接的に打撃を与える可能性があるもの。さらに、従業員によるノートパソコンの紛失、情報漏洩など、個人の不注意などによって引き起こされる可能性があるものなどです。

発生前にリスクを防止する対策を行ったり、発生後の損失の補填について準備をしたりするのがリスクマネジメント。契約書の見直し、訴訟への対策、従業員へのセキュリティ研修などが行われます。

リスクアセスメント

リスクアセスメントは、職場や事業場の労働環境における潜在的な危険性や有害性を把握して、事故などの発生前にそれらのリスクを低減したり除去したりする活動です。労働災害を未然に防ぎ、作業者の安全を確保することを目的に行われます。

具体的なリスクアセスメントの手順は、労働環境におけるリスクやリスク因子の把握、リスクが発生する可能性や頻度の検討、検討内容から機械や化学物質の使用制限、仕様変更を行う3つのステップで実施することが一般的です。

リスクアセスメントの実施後は、従業員に対して報告とコミュニケーションを行うことで、より安全基準の向上が見込めます。近年では、技術の進歩にともなってあらゆる機械や化学物質を使用することも増えています。同様にリスクも多様化している状態のため、リスクアセスメントが注目されています。

リスク分析

リスク分析とは、企業などにおける発生しうるリスクの特質を理解して、あらゆるリスクの中で対策すべき優先順位を決める判断材料を作ることです。リスクの発生可能性、頻度、リスクが発生した場合の影響とその範囲、影響の大小などを検討します。リスク分析は、リスクアセスメントのプロセスの一部です。

リスクはあらゆる種類があるため、すべてを横並びで検討することが難しい場合もあります。そのため、リスク分析はフレームワークを活用して行うことが一般的です。リスクの大きさは、「リスクの大きさ=発生したときの影響の大きさ×発生確率」によって算出されます。影響の大きさと発生確率を軸にしたリスクマトリクスを活用して、リスクをマッピングして見るとわかりやすいでしょう。

危機管理

危機管理は、事件・事故、自然災害、テロなどの緊急事態の発生に対して事前に対処方法の検討や準備をしておくことです。クライシスマネジメントと呼ばれることもあり、事業へのネガティブな影響を最小限に抑えるために行うクライシスコミュニケーションのプロセスの一部でもあります。

どうすれば緊急事態を最小限に抑えられるか、事業の早期回復のためには何を実施すればよいか、といった対応を平常時から検討しておきましょう。具体的には、緊急事態発生時の情報伝達ルート確保、経営層を含めたメディアトレーニング、社内体制の整備、対応マニュアルの作成と更新などを行います。

広報PR担当者は、緊急事態の発生後も誤認情報による風評被害の発生やイメージダウンを最小限に防ぐ対応が必要です。万が一リスクが発生してしまった場合のその後まで見据えた準備が重要になります。

リスクコミュニケーションに注目が高まっている背景

近年、リスクコミュニケーションの注目度は高まってきています。日本で企業や行政によるリスクコミュニケーションがもっとも注目されたのは、2011年に発生した東日本大震災です。

行政や専門家が社会に対して、救援活動、ライフラインの確保、津波・液状化などの発生、東京電力福島第一原子力発電所の事故などに関する適切な情報を発信できなかったことが指摘されています。生活者とのリスクに関する対話が行われることで、社会の混乱や不信感を抑えることができたのでないか、という反省があるのです。

また、コロナ禍における「新しい生活様式」では、十分な科学的エビデンスや判断材料がない中で個人がリスク管理を行うことが必要になります。2011年当時とは異なり、生活者もSNSの活用による発信を容易に行えるようになり、企業や行政との新たなコミュニケーションのかたちが生まれました。一方で、不確実な情報や誤った情報が急速に拡大して社会に悪影響を及ぼす「インフォデミック」の発生や懸念も増加し、生活者の情報リテラシーの大切さが認識されるきっかけとなりました。

過去の反省と社会の変化により、企業や行政による適切なリスクコミュニケーションが重要視されています。

リスクコミュニケーションへの取り組み成功事例

リスクコミュニケーションは、リスクを共有したうえでステークホルダーとの関係構築を目指すものです。昨今では、環境省や経済産業省もリスクコミュニケーションの重要性を啓発しています。そのため、企業だけではなく、行政や自治体でもあらゆる施策が行われています。リスクコミュニケーションの取り組みは、事業の規模や内容によってもさまざまです。ここでは、3つの事例をご紹介します。

富士フイルム

足柄工場を持つ富士フイルム株式会社と神奈川県が主催し南足柄市の協力で実施されたリスクコミュニケーションです。住民、企業、行政が参加し、足柄工場で扱われる化学物質の排出に関するリスクについて理解を深める場を設けました。

「環境対話集会 in 南足柄」と名付けられたこの会は、足柄工場の見学、有識者の講演、参加者による意見交換会が行われていました。参加した地域住民からは、「工場見学や講演を通じて企業の取り組みなども知ったうえで、双方向の意見交換ができたことが有意義だった」という声が多く寄せられました。

NEC

国内各所に事業所を持つNECネットワーク・センサ株式会社は、「環境報告書」を発行しています。報告書の内容は、自社の環境に対する取り組みと、その実績についてを中心にまとめられています。

  • 社内の管理体制
  • 法令遵守
  • 環境事故、災害、苦情の件数
  • 各工場ごとの環境負荷低減の取り組みと実績データ
  • 地域貢献活動事例
  • 年度内の取り組み、目標と実績数値

ステーホルダーと対面でのコミュニケーションは行われていませんが、報告書の末尾には問い合わせ窓口の情報が掲載されています。レポートや書面の形式でも、相互コミュニケーション機会を提供する方法として参考になる事例です。

徳島県

徳島県は、食に対するリスクコミュニケーションの取り組みに注力している自治体です。専門家を講師とした講演会、食品の生産・製造現場における体験型の意見交換会、職員による出前講座など地域の生産者、事業者、住民との相互コミュニケーションの機会を積極的に設けています。消費者庁とも連携して施策の効果測定や分析も行っており、「徳島モデル」という全国リスクコミュニケーションの規範をつくっています。

また、徳島県消費者大学校大学院に「食品安全リスクコミュニケーター養成・食品表示コース」も開講しています。食品安全リスクに関する正しい情報発信ができる人材「食品安全リスクコミュニケーター」を育成し、生活者に近い立場からも食品安全リスクに関する啓発が行われる状態を目指しています。

リスクコミュニケーションを実施する流れ3ステップ

自社でリスクコミュニケーションを行う場合は、どのような取り組みを行えばよいのでしょうか。リスクコミュニケーションのゴールは、企業の安全に対する姿勢を伝えてステークホルダーに安心してもらえる信頼関係を築くことです。それらを達成するためには3つのステップである、リスクを把握する、リスクを伝える、関係者の双方向性のあるコミュニケーションを行う、を実施しましょう。

STEP1.リスクを把握する

まず、自社の事業によって起こりうるリスクを正しく把握しましょう。リスクを過小評価もしくは過大評価してしまうことにも注意が必要です。リスク分析によって以下を明らかにし、正しくリスクの把握をします。

  • どのようなリスクの可能性があるか
  • そのリスクはどれくらいの頻度で発生する可能性があるか
  • リスクが発生した場合の影響範囲はどの程度か
  • リスクが発生した場合の影響度の大きさはどの程度か

企業の抱えるリスクは1つではありません。複数のリスクがある中で、重要度や緊急度の高いものから優先順位を決めて対応するようにしましょう。

リスクを把握できたら、対策もセットで考えるようにします。リスクコミュニケーションにおいて、リスクだけをステークホルダーに伝えることは、ただ不安を煽るだけのコミュニケーションになりかねないので避けてください。リスクが発生しないために、どのように企業として取り組んでいくのかをセットで検討しましょう。

STEP2.ステークホルダーへリスクを伝える

リスクを把握し対策が決定したら、それらの情報をステークホルダーへ伝達します。リスクの伝え方にはさまざまな方法がありますが、内容に応じて適切な方法を選択するようにしましょう。工場見学、有識者による講演会、プレスリリース、パンフレットなどが一般的によく見る方法です。

ステークホルダーへ伝えるときには、専門知識がない生活者でもわかりやすい言葉選びが重要です。特に化学物質の流出や環境汚染に関する内容の場合は、言葉のイメージだけで過剰な拒否反応が起こるケースも存在します。リスクの影響が低いことが科学的に実証されていたとしても、伝わらなければ意味がありません。専門用語はなるべく排除し、老若男女誰もが理解できる、イメージしやすい言葉選びを意識してみてください。

STEP3.双方向性のあるコミュニケーションの実施

リスクについて伝えたら、ステークホルダーとの双方向性のあるコミュニケーションの機会をつくります。一方的なリスクの伝達だけでは、「何かを隠蔽しているのではないか」、「本当はすでにリスクが発生しているのではないか」など、不要な臆測を招くことがあります。

リスクコミュニケーションは、ステークホルダーの不安や意見を教えてもらい、それらの不安払拭や意見をどのように取り入れていくのかを議論することで信頼関係を築いていくものです。ただリスクを伝えるだけではなく、双方向性のあるコミュニケーションが生まれることがリスクコミュニケーション成功のポイントです。ディスカッションなどを実施するための意見交換会の開催、問い合わせ窓口や意見を投書できるフォームを活用するなど、ステークホルダーが声をあげやすい場づくりをするようにしましょう。

リスクコミュニケーションを実施するときの4つのポイント

リスクコミュニケーションは、ピンチを最小限に抑えてチャンスに変える可能性がある重要な施策です。ステークホルダーとのコミュニケーションを成功させて信頼関係を築くためには、どのように不安に寄り添うのかが大きなポイント。まったく寄り添う姿勢を見せないコミュニケーションは論外ですが、寄り添いすぎるのも失敗を招く要素です。常に適度な距離を保ち、適切なコミュニケーションを行うことが、リスクコミュニケーションの成功につながります。

ポイント

ポイント1.迅速に情報発信する

リスクの可能性がわかったときには、迅速にステークホルダーへ情報発信を行いましょう。リスクコミュニケーションを行ったとしても、一朝一夕の取り組みで信頼関係を構築することはできません。リスクを発生させないことが一番ですが、万が一リスクが発生してしまった場合に向けて、万全の体制を整えておくことがリスクコミュニケーションの目的です。そのためには、長い年月をかけてステークホルダーと対話をしていかなくてはなりません。

リスクの可能性がわかったら、少しでも早く情報を発信し対話の機会をつくるようにしましょう。スピード感を持った対応が生活者に好印象を与えます。逆に、リスクを把握したにも関わらず隠蔽したり情報発信を行わないことは、リスクが発生したときの炎上リスクにもつながります。上辺を取り繕いたい気持ちになることもありますが、誠実な対応が必要です。

ポイント2.信頼できる情報を発信する

情報発信を行うときは、ステークホルダーが信頼できる情報を心がけましょう。不安を抱える生活者に対して感情的に説得を行うようなコミュニケーションをしてはいけません。リスクコミュニケーションにおける情報発信は、ステークホルダーが受け入れやすいエビデンスを持って両者の情報ギャップをなくすために行われるのが理想です。

自社の定量的なデータを活用するのはもちろんですが、第三者による調査や専門家の意見などを取り入れることも検討してみましょう。発信元の情報だけでなく客観的な意見やデータを提示することで、より受け入れられやすい情報発信になります。このような第三者の情報を提供してもらえる専門家などとの関係を築いておくことも重要です。

ポイント3.わかりやすい表現で伝える

どんなに情報を発信しても、ステークホルダーに理解し納得してもらわなくては意味がありません。エビデンスを提示することは重要ですが、それらの内容が適切に伝わらなくてはコミュニケーションは成立しないのです。業界に関わる専門用語、社内用語、外国語、カタカナ語などは、人によって理解度が異なります。一部の人だけが理解できる発信になっていないかどうか、内容や語彙をよく検討するようにしましょう。イラストや図表を使った補足も情報をわかりやすくしてくれる手段のひとつです。

情報が多ければ安心につながるというものではありません。提供する情報をつい増やしてしまいたくなりますが、情報が増えれば、その分複雑性は増してしまいます。不要な情報や過剰に情報が発信されていないか、要点をつかみやすい構成になっているか、といった点もわかりやすい情報発信には欠かせないポイントです。

ポイント4.適切なメディアを利用する

リスクコミュニケーションはさまざまな手段で行うことができます。自社が発信したい情報やステークホルダーとどのような信頼関係を築きたいのかによって、適切なメディアを選定し、活用しましょう。例えば、プレスリリースやパンフレットなどのテキストメディア、工場見学、講演会、座談会、動画などが考えられます。1つの手法だけを使うのではなく、複数の手法を組み合わせることもできるので、それぞれのメディアの強みと弱みを補完しながらコミュニケーションを行うようにしましょう。

メディアを選定するときには、そのメディアを使った情報発信に付随してどのように双方向のコミュニケーションを行うのか、どうすれば活発な対話が生まれるのかも併せて検討するようにしてください。リスクコミュニケーションでは、情報発信とともにコミュニケーションが生まれる機会や導線作りまで含めて設計するのを忘れないようにしましょう。

リスクコミュニケーションで信頼関係を作ろう

リスクコミュニケーションについて、意義や方法、成功させるためのポイントについてお話をしてきました。リスクはどんな企業や事業でもつきものです。発生させないことが一番良いのですが、発生してしまったときのステークホルダーの安全や損失を最小限に抑える姿勢を示すことで、信頼関係を構築することができます。リスクが発生してしまった場合に、不要なトラブルを防ぐことにつながるのです。

信頼関係を作るためには、説得したり一方的なコミュニケーションではなく、ステークホルダーが抱える不安に寄り添い、理解し納得してもらうための双方向のコミュニケーションが大切。どのような手段で実現するのかを、目的やゴールから設計するようにしてくださいね。

リスクコミュニケーションに関するQ&A

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この記事のライター

長瀬 みなみ

長瀬 みなみ

ITベンチャーにて広報PRを担当したのち、ヘルスケアベンチャーにて広報PR部門の立ち上げ、ブランド責任者として取締役就任。YouTubeチャンネル運営など、さまざまなメディアを活用した分ランディングや広報活動を行う。独立後は、広報PR・ブランディング・コミュニティ運営など幅広く活動している。これまでの経験から広報・ブランディングに関する戦略立案からプレスリリース執筆まで幅広くカバーしたコンテンツを作っています。

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