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SDGs先進企業・丸井グループが全社一丸で実践する、共創経営のあり方

「SDGs」という言葉を、最近見聞きすることが増えた人も多いでしょう。 「Sustainable Development Goals」の略で、「2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す開発目標」を意味します。環境・社会・経済問題の観点から、17のゴール・169のターゲットで構成され、2015年ニューヨークの国連本部にて、193の加盟国が全会一致で採択しました。

2030年までの取り組み結果が、次の50年を作ると言われていますが、 ビジネスの世界でも企業がどのようにSDGsを取り入れているかが注目されています。そのような中、どのように自社事業とSDGsを関連させるか、社内に浸透させるべきか課題を感じている企業や担当者もいるのではないでしょうか。

今回は、社会課題の解決やガバナンスの取り組みを、ビジネスと一体化し推進し続ける、国内ESG経営の先進企業ともいえる株式会社丸井グループ、サステナビリティ部 部長の関崎陽子さんに、同社の取り組みについてお聞きしました。

株式会社丸井グループの最新のプレスリリースはこちら:株式会社丸井グループのプレスリリース

株式会社丸井グループ サステナビリティ部 部長

関崎 陽子(Sekizaki Yoko)

1998年入社。 営業店での販売、広報室、婦人靴バイヤーを経て、金融部門でサービス商品開発、カード企画担当を務める。 2005年より労働組合(マルイグループユニオン)専従役員。 2017年北千住マルイ店次長、2018年より中野マルイ店長を務め、2019年4月より現職。

スタートは、SDGsではなく「インクルージョン」

ー丸井グループがSDGsの取り組みを進めた背景を教えてください

関崎さん(以下、敬称略):丸井グループでは、2015年にSDGsが定められる以前から、お客さまの「しあわせ」をすべてのステークホルダーと共に創る「共創サステナビリティ経営」を進めています。

大きな転機となったのは2009年と2011年です。赤字で経営危機を経験したのを機に、あらためて商売の原点に立ち戻り、大切なのは「時代と共に変化するお客さまのニーズや社会課題に対して、どう向き合っていくか」だと気づきました

株式会社丸井グループ

私たちが特に大切にしているのは、「インクルージョン」です。具体的には、「すべてのお客さま」という視点で、これまで見過ごされてきたものを包含する・取り込むというものです。年齢・性別・身体的な特徴などを超えて、すべてのお客さまに喜んでいただける商品・サービス・施設の在り方にしていこうと決めました

ーインクルージョンの具体的な事例を教えていただけますか。

関崎:例えば靴のサイズへの取り組みです。世の中には、標準的なサイズの方に向けた靴はたくさんあります。一方で、サイズでお困りのお客さまも多くいることに気づきました。お客さまから生の声を聞く場を設けた『お客さま企画会議』を開催した時に、「自分にぴったりのサイズがない」という声をいただいたんです。そこから、一人ひとりの足にフィットする「ラクチンきれいシューズ」の開発をスタートしました。

株式会社丸井グループ  靴

サイズが合わずに痛くて履けず捨てられることがないよう履き心地を追及し、19.5cm〜27cmの足サイズを100%カバーする展開にしました。

クレジットカードの取り組みも同様です。年齢、職業、年収にかかわらず、ご利用の実績に基づく「信用の共創」という考え方で、若い方にも分け隔てなく金融サービスを提供していこうという、創業当時から変わらない取り組みを進めています。カード会員さまの約半数は、20〜30代の若いお客さまです。

ーお客さまの声を聞く場を設けて、サービスや商品に反映されてきたんですね。

これらの取り組みを振り返ると、SDGsが掲げている「誰ひとりも取り残さない」世界の実現に通じているんですよね。SDGsの何番の項目に、この取り組みが通じているのかとは考えますが、何番をやるためにこれに取り組みます、という発想はあまりありません

株式会社丸井グループ 関崎陽子さん1

一方お客さまの中でも、SDGsの認知が高まっていることを感じます。店舗でSDGsと関連する取り組みをご紹介すると、お客さまから「SDGsの何番に通じる取り組みなんですね」と言ってもらえることもあります。お客さまの声も知れて、当社の取り組みを知ってもらえる意味では、SDGsが一つのコミュニケーションツールになっています

ーサステナビリティ部では、社内外のSDGsを推進するために、どのような役割を担われていますか。

関崎:社内外を巻き込みながら、ビジネスを通じた社会課題の解決に寄与することが私たちのミッションです。

サステナビリティ部は、投資家の皆さんに向けた情報開示を行うESG推進部も兼任していますが、コーポレートサイトやメディアを通じて取り組みを発信することで、ステークホルダーの皆さんからフィードバックをいただけます

その声をもとに、誰にどんな価値を届けたら良いかを企画立案し、取り組みを進めているのが、私たちサステナビリティ部です。

ー広報室やIR部とはどのように連携されていますか

広報室、IR部、サステナビリティ部の3つは、SDGsおいても社内外のコミュニケーションの肝です。広報室やIR部に入ってこない情報が私たちに入ってくることもありますし、その逆もまたしかりです。

広報室とサステナビリティ部は、同じフロアにあり席も近くにあります。PR TIMES MAGAZINEさんからの今回の取材も、広報担当から「これ受けてください」とその場で依頼をもらったくらい(笑)。

株式会社丸井グループ 関崎陽子さん2

SDGsに関する取材の窓口を広報室が担当してくれていて、メディア取材やアンケート依頼などを適切なところに振り分けてくれるので、やりやすくて安心です。広報室からもらった案件は断りません

IR部は、投資家の皆さんと頻繁に連絡を取っていますが、最近は中長期のSDGsに関する経営に関心がある方がものすごく増えてきているので、ESG推進部の人間として、IR部のメンバーと一緒に投資家と対話することもあります。声がかかったら断らずにいきますし、逆に投資家の方と対話させてほしい、と伝えることもあります。

「手挙げ」で進めるイノベーション

ーSDGsの取り組みにおいて、企画段階から社員さんを巻き込んでいるのも印象的です。どんな工夫をしていますか? 

関崎:SDGsは、トップの意思や経営の理解は当然大事ですが、ボトムアップの取り組みが非常に重要だと感じています。SDGsは各テーマの抽象度が高いので、社員が自身の活動に腹落ちさせていくために、プロセス段階からの社員の参画も大切だと思います。トップダウンとボトムアップの両方があることで、相乗効果が生まれると考えています。

丸井グループでは、社員が主体的に手を挙げて参加し成長していくための仕組みづくりを行っています。「手挙げ」と言っていますが、経営にとって重要なテーマを議論・対話する場をはじめ、新規事業創出、職種変更などの機会に、自ら手を挙げる(応募する)仕組みです。

2019年に、「丸井グループ ビジョン2050」を定めましたが、これを検討するメンバーもグループ横断で公募しました。選抜する50名の枠に、約7倍の応募が集まったんです。志望動機を800字ほどで書いてもらい、私たちが読ませてもらって、その中からメンバーを選びました。

丸井グループが考える2050年の世界
プロジェクトメンバーが参加して作成した「丸井グループが考える2050年の世界」

20代の社員は、サステナビリティの価値観が当たり前にあるメンバーも多く、年次問わずプロジェクトに参画することで、ベテラン社員も違う視点を持てる良い機会になっていると思います。 

自分のチームで手挙げ制度に参加したメンバーから「今こんなプロジェクトで、こんなことを企画していて」と嬉々として語られると、「面白そうだから私もやってみたいな」となりますよね。

手挙げが始まったのは10年前ですが、自分で考え、自分の言葉で行動できる、自律的な組織づくりをめざすためのものです。丸井グループが「組織として、高い熱量でSDGsに取り組んでいるね」と言われる背景には、この仕組みが一番関係しているように思います。

ー素晴らしいですね。「手挙げ」から出た企画が具体化された例はありますか?

関崎:例えば、2017年から社員とその家族に向けた「インクルージョンフェス」です。ダイバーシティ&インクルージョンの社内理解の浸透をテーマに、車いすユーザーやご高齢の方の擬似体験やサポート方法、ブラインドサッカー等が体験できるイベントです。各企画の内容は、すべて手挙げで選ばれたメンバーが考え、運営してきました。

インクルージョンフェスをきっかけに、社員や投資家には丸井グループの取り組みを知ってもらえるようになりました。一方でお客さまには認識されていないという課題が出たんです。そこで昨年度は、お客さま向けにインクルージョンフェスを開催することが決まり、さらに手挙げで店舗を募りました。

店舗ごとに工夫をし、グループの取り組みを掲示したり、テナントさまと一緒にサステナビリティやウェルビーイングをテーマにコンテンツを企画したりと、店舗ごとの創意工夫が凝らされていたのも、丸井グループの特長だと感じます。

株式会社丸井グループ  高齢者体験
インクルージョンフェスでお客さまが高齢者体験をしている様子
株式会社丸井グループ  音声情報案内アプリ情報
インクルージョンフェスで掲載したコード化点字ブロックによる音声情報案内アプリ情報

インクルージョンフェスをよい例として、お客さまやお取引先の皆さまとも一緒に、社会課題の解決につなげていきたいと思っています。

株式会社丸井グループ 関崎陽子さん3

また、10人以下のメンバーで、事業成長に直結するSDGsの取り組みを半年ほどの短期間で考える、「イニシアチブ」という仕組みもあります。こちらも手挙げでメンバーを選び、社会課題について議論しながら、事業に関連づけていきます。

イニシアチブで出た「食を通じた温室効果ガス削減」の課題から、事業化につながった事例を紹介します。ある日メンバーとの対話の中で、世界で出ている温室効果ガスの1/4は食だという話になったんです。

そこで「自動車を電気自動車に変えることはすぐにはできないけれど、1週間に一度、環境に配慮されたものを食べるのは取り入れやすいのではないか?」と話が発展したところ、「ウィーガン(※)を楽しくできないか?と思いつき、ヴィーガン事業部を作ることを決めました。
(※)卵や乳製品を含む、動物性食品を摂らないこと

2020年10月に事業部を立ち上げて、私が責任者となり、事業部メンバーも手挙げで3名選びました。まだ走り出しの状態ですが、手挙げと事業化の成功事例にしていけたらと思っています。自分のビジョンと会社の方向性が一致していると物事が早く進みますね

ビジネスと社会貢献の両輪で進めることが肝

ーお話をうかがう中で、SDGsを事業に結び付けていることを感じます。

関崎:「ビジネスを通じて」というキーワードは、常に意識しています。もともと、サステナビリティ部の前身はCSR推進部で、2005年にCSR推進部、2017年にサステナビリティ部ができました。CSRは、慈善活動に近い社会貢献活動の発想ですが、本業を通じてサステナビリティを実現しないといけないよね、という考えがありました

株式会社丸井グループ 関崎陽子さん4

そのような経緯で、サステナビリティ部を作り、社内でも社会課題をビジネスで解決するんだという意思が少しずつ広がってきましたが、どのように成果として繋いでいくかは、まさに今の課題です。結びつけるためには、ステークホルダーの声を聞きながら、頭に汗をかいて、実践し続けるしかないと思います。

ーSDGsの取り組みについて、大事にしていきたいことはありますか。

関崎:SDGsは国際社会が目指していく姿なので、評価するのはステークホルダーだと思っています。なので、SDGsの取り組みをやっていますというアピールだけにならないようには気をつけています。

正しく伝えて知ってもらう努力は必要ですが、伝える前に、ステークホルダーに対して価値あるインパクトが出せたかどうかが重要です。結果を出したうえで、世の中に価値を伝える発信をしていきたいと思います。

少しニュアンスは変わりますが、SDGsを意識しながら取り組んでいるプロセスを伝えていくことは大事なので、そこは誠実に対応していきたいです。100%完璧にするのは難しいですが、できていることをみんなが認め合えるようになると、SDGsが広がるのではないかと思います。

ー最後に、今後の目標を教えてください

関崎:お客さまと一緒に、社会課題の解決につながるチャレンジをしていくことが、ここ1〜2年の目標です。ありがたいことに、ESG関連の投資家の皆さんからは評価いただきうれしく思っていますが、一般のお客さまに丸井のSDGsの取り組みを伝えきれていないと思っています。

事業とSDGsを結びつけるのは、なかなか難易度が高いことです。このようなギャップがあるのは逆にチャンスだとも思うので、世の中が変化する中で、SDGsに取り組むことが楽しいし、お客さまも求めているし、やらずにはいられないよね、という空気づくりに挑戦していきます。

今回のPR事例ポイント

株式会社丸井グループ 関崎陽子さん5
  • ステークホルダーと一緒に共創するために、SDGsの取り組みプロセスを開示するコミュニケーション
  • 商品・サービス、経営をよりサステナブルにするために、お客さまや株主、投資家等との定期的な対話の場を設定
  • 会社のビジョンや方向性を見せ、実現プロセスに社員を参画させる「手挙げ」の仕組み

ステークホルダー間の利益は、短期間で見ると対立しがちですが、丸井グループでは長期目標を置き、経営陣だけでなく社員参画型で環境や社会について考え、サステナブルな経営に向け取り組んでいます。

「情報開示」「広聴」「企業文化」の積み重ねが、ステークホルダーとの共創を生み、SDGsを進める重要な鍵になるのだと学びました。

あなたの所属企業や組織にも、これらのエッセンスを加えることを提案しませんか?できそうなことから少しずつ始めてみることで、ステークホルダーとのコミュニケーションが変わっていくかもしれません。

(撮影:原 哲也、取材はリモートで実施しました)

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この記事のライター

岡田 麻未

岡田 麻未

大学時代に所属していた教育系NPOで広報・採用のコミュニケーション領域に出会う。新卒で福祉系ベンチャー企業にてPRとマーケティングを経験したのち、現在は女性向けのライフキャリア支援サービス運営会社にて、広報PRとプロダクトづくりを担当。あるストーリーの裏側をことばに乗せて伝えていきたい。銭湯でぼーっとする瞬間がすきです。

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