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多事業展開の組織でPR活動を活性化させる「PRクラブ」を発足 ── エイチーム広報・尾崎美鈴

多角的に事業を展開していて、コーポレート、そして各事業のPR担当者同士が連携できていない。そんな悩みを抱えているPRパーソンも少なくないことでしょう。

名古屋に本社を構える総合IT企業の株式会社エイチームさんでは、ライフスタイルサポート事業、エンターテインメント事業、EC事業と3つの軸で多角的に事業を展開していることから、各サービスの情報発信ボリュームや質の偏りに課題を感じていたと言います。こうした課題感を解消するために、2年前に誕生したのが全社横断のPRプロジェクト「PRクラブ」です。

今回はエイチーム広報の尾崎さんに、「PRクラブ」の発足経緯や効果について、お話しいただきました。

株式会社エイチームの最新のプレスリリースはこちら:株式会社エイチームのプレスリリース

株式会社エイチーム 社長室 広報

尾崎 美鈴(おざき みすず)

長野県出身。新卒でアパレル商社に入社し販売業務に従事。2011年1月にエイチームに入社後、総務・人事を経て同社初の広報専任担当となり、広報機能を立ち上げる。企業認知拡大に向け、メディアリレーションやTVCMをはじめとするコーポレートブランディング等、幅広い企業広報業務を担当。育児休業を経て2019年に復帰後、引き続きコーポレートPRとしてグループ全体のPR活動に携わる。

情報発信のムラが、コーポレートブランド形成の障壁に

ー エイチームは「総合IT企業」ということですが、現在どのような事業を展開されているのでしょうか。

エイチームには、世界中で人気の高い「ダークサマナー」などスマートフォン向けゲームを扱うエンターテインメント事業、引越し比較・予約サイト「引越し侍」や結婚式場情報サイト「ハナユメ」などライフイベントや日常生活に密着するライフスタイルサポート事業、自転車専門通販サイト「cyma-サイマ-」を運営するEC事業部など、大きく3つの事業部があり、それぞれに複数のサービスが紐づいています。

事業によっては子会社でサービスを運営しているので、同様の業務を行っていても事業が違えば普段の業務では関わりがありません。せっかく社内にノウハウがあるのに、情報が共有されていないため、課題解決に時間を要してしまう。そこで、マーケティングやWebプロモーションなどでは、事業部間で知見や成功事例を共有するための全社横断プロジェクトが約3年前から存在していました。今回の「PRクラブ」も、このプロジェクトの一環です。

ー 多角的なサービスを複数展開されているのですね。「PRクラブ」を発足したきっかけは?

PRクラブは2018年9月に発足しました。きっかけは、わたしが産休・育休に入ったこと。IRマネージャーが広報も兼務で管掌するにあたり、いくつかの課題が見えたため、「PRクラブ」を立ち上げました。わたしは2019年4月には復帰しており、いまではPRクラブのプロジェクトリーダーとしてサービスPR担当者との連携を担っています。

株式会社エイチーム_尾崎 美鈴_20101201

ー 当時見えた「広報課題」について、詳しく教えてください。

まずは、「総合IT企業」としてのブランド認知度が低かったことです。認知度調査や採用応募者アンケート等から「名古屋のIT企業」としては認知されている一方、企業とサービスの結びつきが弱いことがわかりました。上場当時にスマートフォンゲームが大ヒットしていたため「ゲーム会社」のイメージが強ったのでしょう。ゲーム以外の事業での情報発信量を増やす必要がありました。

次に、コーポレートと各事業との情報連携が不足していたこと。「総合IT企業」と認知されるには、「サービスごと」の情報発信ではなく、「企業+サービス」でメッセージを設計せねばなりません。そしてそのためには、全社的なPRスキルの向上も不可欠です。

最後に、メディアリレーションズが本社を構える愛知県内に集中し、特に東京エリアでの新規メディア開拓に難航していたことです。サービス自体は全国展開をしているのに、愛知県内で完結しがちでした。というのも、サービスPR担当者は他の業務と兼務しているためリソースが十分に割けなかったんです。スピード感を持って全国区のメディア開拓を進めるために、外部のPRパートナーの協力を得られる体制をつくろうと考えました。

改革の要は部署間を超えた情報とスキルのシェア

ー PRクラブにはどんな方々が関わっているのでしょうか。

主には各事業部に所属するサービスPRの担当者たちと、プロジェクトリーダーとしてコーポレートPRの私です。私はリリース日時の調整などの統括業務を担っています。PRクラブ発足以前は各事業で「PR部門」を構えておらず、PR担当者の有無がバラバラでした。

特徴的なのは、PR会社の方にも参加いただいている点です。これまではゲーム関連の情報発信が中心だったため、それ以外サービスは情報発信自体が少なく、PRの知見が不足していました。情報のフォーマットを揃えるなど質を向上させながら、社内に知識として定着させていくために、長らくお付き合いのある広告代理店経由で、東京でのメディアリレーションズをサポートしてもらうPR会社のご担当者さまに参画いただきました。

株式会社エイチーム_尾崎 美鈴_20101202

ー 「PRクラブ」では具体的にはどのような取り組みをされていますか。

まずはコーポレートPRとサービスPRの業務を明確化し、PR体制を下図のように整備しました。お互いに無駄な動きがなくなり、各メンバーがそれぞれの業務に専念できるようになりましたね。

株式会社エイチームのPR体制

次に、月に1回の定例会を実施し、各事業部の年間計画や進行中の案件を共有しています。PR会社のメンバーからその時々でのトレンドワードについてアドバイスをもらい、PRネタをみんなでブレストすることも。コロナ禍の今はオンラインで開催しています。

ー PRクラブを運営される中で、苦労はありましたか。

各事業部のPR担当者となったメンバーに、PRの意義や目的を理解してもらうことに苦労しました。リスティング広告運用などのマーケティング活動とPR活動の大きな違いは、すぐに目に見える成果がでないこと。情報を拾い上げ、つくり、発信する。こうした種まきに時間を費やしてもらうこと自体のハードルが高かったんです。

マーケティング目線で発信したい情報と、PR目線で取り入れるべき情報にギャップがあったのも大変でしたね。イベント告知など発信したい情報数は格段に増えましたが、いかにパブリックに向けた情報としてレベルアップしていくかはまだまだ課題です。

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過去に発信したプレスリリースのPV、UU、メディア掲載数、ソーシャルエコーなどからどのような情報発信がどう有効なのかを説明したり、実際のメディアからの問い合わせを体験したりして、PRを少しずつ浸透させていきました。

そうした活動が実を結んだのか、いまではPRクラブのメンバーが自部署内の情報を収集して自らプレスリリースを考案するなど、意欲的に取り組んでくれています。また、発足当時PRクラブに参加していなかったサービスにもPR担当者が誕生するなど、当初よりもメンバーが増えました

事業部単位でPR活動が自走できるように

ー PRクラブ発足から2年、いまはどのような状況でしょうか。

プレスリリースの配信数自体は前年比+60%と、情報発信の機会自体が格段に増えました。これにより、ゲーム関連のプレスリリースの割合が全体の67%から45%に抑えられ、自社の話題がゲームに偏っていたという課題が解決されました。とくにライフスタイルサポート関連で発信する調査レポートへのメディア問い合わせが増え、多様な事業を展開する「総合IT企業」のブランド基盤が構築できつつあると感じています。

プレスリリース配信本数の割合

ー 狙い通りの結果が出ているのですね。その他の課題だったサービスPRのスキル向上や、メディアの新規開拓に関してはどうですか。

PR担当者全体のスキルが底上げされたと感じています。PR会社に話題となっているニュースの切り口やメディア掲載に繋がったプレスリリースを考察・共有いただき、プロ目線の情報をインプットできる環境になったことが大きいですね。PR未経験者でも「なぜ今か」「なぜエイチームなのか」など、PR活動では欠かせない要素を網羅したプレスリリースを作成できるようになりました

また、メディアリレーションズの状況を全社で共有することで、PR会社からのメディアアプローチに加え、各サービスPR担当者自らによるメディアキャラバンも実行できるようになりました。各事業部のPR担当者と新規メディアとの接点も増え、事業部単位でPR活動が自走できつつあります

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ー 最後に尾崎さんから、今後の抱負をお聞かせください。

「PRクラブ」は発足して3年目を迎えます。多角的に事業を展開する弊社ですが、特定サービスの認知度に頼ることなく、コーポレートPR・サービスPRの両軸でコーポレートブランドを築き、よりPRの価値を高めたいですね。

エイチームのように、各サービスのPR活動の強化や連携、PR体制をどう改善すべきかを悩んでいるPRパーソンは少なくないはず。エイチームのPRクラブがひとつの事例として参考になれば嬉しいです。

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事業が多角化し情報発信数が増えていくと、事業ごとで量や質に偏りが出やすくなります。それどころか、発信数が増えれば増えるほど、PR担当者の業務も増え、”リリース担当”となってしまうことも。

そんな状況を仕組みで改善したのが今回の事例でした。中〜大規模の組織でPRを浸透できたのは、その重要性を時間をかけて現場の担当者一人ひとりに実感してもらったからこそでしょう。

わかりやすい仕組みと、納得して動けるだけの業務への理解。この2点に留意すれば、社内で広報意識を持った人員を増やせ、PR活動をより望ましい形ですすめることができるはずです。

(撮影:北川友美)

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この記事のライター

永井 玲子

永井 玲子

東京・大阪でメディアリレーションを行う関西在住の広報パーソン。新卒でルート営業、2社目に入った会社で未経験ながら広報をゼロから立ち上げ、広報キャリアをスタート。2021年からフリーランス。自分が良いと思った「地方」の人・物・サービスを応援するために広報をやっています。日々頑張っている全国の広報パーソンが正しく評価されるよう、PR TIMES MAGAZINEで想いを紹介したいと思います。

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