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自分たちの価値を伝え理解者を増やす。都市と地方をかきまぜ、持続可能な地域社会へ|株式会社雨風太陽

昨年12月に東京証券取引所グロース市場に上場を果たした、株式会社雨風太陽。日本全国の生産者と購入者をつなぐ直産プラットフォーム「ポケットマルシェ」の運営や親子地方留学などを手掛ける注目の企業です。

東日本大震災をきっかけに誕生した前身のNPO法人時代から、「都市と地方をかきまぜる」を一貫したミッションとして掲げ、都市と地方の分断や地方の過疎高齢化の解決に取り組んでいます。

本記事は、元岩手県議員から起業という異色の経歴を持つ株式会社雨風太陽の代表取締役の高橋博之さんを取材。この10年で日本全国を8周し、各都市の生産者の声に耳を傾けてきた高橋さん。社会課題の解決と企業成長をどのように両立していくのか、そしてそのために広報PR活動を必要とする理由を伺いました。

株式会社雨風太陽の最新のプレスリリースはこちら:株式会社雨風太陽のプレスリリース

株式会社雨風太陽 代表取締役

高橋 博之(Takahashi Hiroyuki)

1974年、岩手県花巻市生まれ。青山学院大卒。代議士秘書等を経て、2006年岩手県議会議員に初当選。翌年の選挙では2期連続のトップ当選。震災後、復興の最前線に立つため岩手県知事選に出馬するも次点で落選、政界引退。2013年NPO法人東北開墾を立ち上げ、地方の生産者と都市の消費者をつなぐ、世界初の食べもの付き情報誌「東北食べる通信」を創刊し、編集長に就任。2015年当社設立、代表取締役に就任。

きっかけは東日本大震災。県知事落選を機に起業家へ

──株式会社雨風太陽は、東日本大震災をきっかけに生まれた会社だそうですね。創業の背景について教えていただけますでしょうか。

東日本大震災が発生した当時、僕は岩手県議会議員の2期目。震災はさまざまな社会課題を浮き彫りにすると言われていますが、東日本大震災で僕が目にしたのは「都市と地方の分断」でした。

津波によって壊滅的な被害を受けた三陸沿岸部は、岩手県でも最も過疎高齢化が進んでいた地域です。復興によって元の状態にしても、ただの過疎地に戻すだけで希望は見えません。そのため、震災前から抱えていた課題を解決するような「創造的復興」への先頭に立って取り組んでいきたいと、岩手県知事選への出馬を決めました。

相手は現職の知事。知名度も高く、家族や親戚、同僚には「勝ち目はないから早まるな」と猛反対されました。結果は落選。それでも、自分の心に芽生えた思いに嘘はつきたくなかったんです。

政治の力で復興を目指していた一方、たくさんの起業家が被災地に入り復興支援をしている姿を見て、「こうやって世の中を変えていく道もあるのか」と刺激を受けていました。そこで、政治の力ではなく、自分で事業を始めて課題を解決していこうと思い、2013年7月に「NPO法人東北開墾」を立ち上げ、情報誌『東北食べる通信』を創刊したんです。

株式会社雨風太陽インタビュー01

生産者と消費者の「つながり」が生み出すポジティブなインパクト

──「都市と地方の分断」を解決するために、どのような取り組みをされたのでしょうか。

生産者と消費者を「つなぐ」ことです。東日本大震災の発生後、都市部からたくさんのボランティアスタッフが被災地を訪れました。被災者は漁業や農業を生業とする「生産者」の立場の方が多く、ボランティアで訪れた方々とは「生産者」と「消費者」の関係であることに気づいたんです。

「生まれてはじめて漁師さんに会った」というボランティアスタッフの方が何人もいました。たしかに都市で生活をしていたらスーパーに並ぶ農水産物がどこから来たのかそれほど気にすることもないですよね。それは生産者も同じで、市場に卸したらそれで終わり。実際に食べている人を知る機会もなかったわけです。その両者が出会ったことで、双方にポジティブな影響を与えているのを感じました。

生産者は消費者の声を直接聞くことでモチベーションが上がり、何を食べて何を食べないのかというマーケティングを消費者から学ぶことができます。一方、消費者も普段食べている魚をどんな人が獲っているのかを知ることによって、その魚に対する思いに変化が生まれました。スーパーと比べると多少値段が高そうでも、「生産者に共感し、応援の気持ちも込めて適正な価格で買う」という新しい選択肢が生まれたんです。

都市と地方の分断を乗り越えるには、「生産とつながった消費」と「消費とつながった生産」の両方が大切。これをプロデューサーとコンシューマーを合わせて「プロシューマー」と呼んでいますが、それを増やそうと震災後の復興の取り組みとしてだけでなく日常的に取り組んでいくために、事業としてやっていこうと思ったわけです。

──NPO法人から株式会社に変えたきっかけは何だったのでしょうか。

『東北食べる通信』では、毎月1人の生産者にフォーカスして、そのライフストーリーを発信していました。僕はその取材と執筆をしていたのですが、8,000字の記事にするためには1回の取材で1時間話を聞くだけでは書くことができないんです。生産者とじっくり信頼関係を築いて初めて深い話を聞くことができる。それだけの手間をかけるので、1年間で12人しか取り上げることができず、このままのペースでやっていては社会課題の解決は程遠いと思ったんですよね。

そこで考えたのが、生産者自らが情報発信者となること。今は誰もがスマホを持っていますし、日本は世界に誇る物流網を持っているので、『東北食べる通信』で得た知見を取り入れて、生産者と消費者が直接つながり、一人ひとりの生産者にお客さまがつけば、食卓が大きく変化するのではないかと思いました。

それを実現するためにはアプリ開発が必要ですが、NPOの資金では手が届かない。そのため株式会社化し出資をしていただき、アプリ開発に着手しました。そうして2016年9月にスタートしたのが「ポケットマルシェ」です。

生産者の自立を後押しする「ポケットマルシェ」

──さまざまな取り組みをされていますが、中でも苦労されたことはありますか。

「ポケットマルシェ」は今でこそ8,000人ほどの生産者が登録していますが、立ち上げ当初はその数を増やすことに大変苦労しましたね。

「スマホで手軽に出品してお金が入るなんてうまい話があるはずがない」という生産者の方もいましたし、信頼をベースに仕事が成り立っているところが大きかったんでしょうね。そこを理解していただくために、この10年間で日本全国を8周しました。各県で車座座談会を開催して「なぜこの取り組みをしているのか」「なぜ生産者自らが情報を発信していくべきなのか」、僕の思いを生産者の方々に伝えてまわりました。一緒に食事をして酒を飲み、次の日には船に乗せてもらったり、畑にお邪魔したり、そういう種まきをひたすら続けてきたという感じです。

──ポケットマルシェはコロナ禍を機に大きく成長したそうですね。

コロナ禍で僕たちは時間を得ましたよね。家にいる時間を少しでもストレスなく過ごすために、今までは時短を優先にして簡素化されてきた食事を見直し、もう少し楽しくしようと考える人が増えたと思います。

一方、生産者の方々もコロナ禍によって飲食店に生産物を卸すことができなくなったことで、これまでは手間がかかって大変と避けていた直販に取り組もうと動き出しました。コロナ禍をきっかけに生産者と消費者の両方にポケットマルシェが広がっていき、見える景色が大きく変わったと思います。

ポケットマルシェは分散型の流通なので、いろいろな問題が顕在化してもリスクヘッジすることができます。気候変動などの問題や、東日本大震災のような大規模災害など、何かが起きたときに最初に動くポジションでいたいと、立ち上げ当初から常に意識して準備をしてきたんです。

──思いを届ける情報発信について、高橋さんから生産者の方にアドバイスをされることもあるのでしょうか。

僕たちから何かを教えるというよりも、逆に教わることのほうが多いんですよ。生産者と消費者を双方向につなげるところまでは僕たちがお手伝いしますが、その間には入らないことをモットーにしています。そのほうがいろいろなコミュニケーションや情報発信が生まれていくと思うんです。

生産者と消費者が対面で会えば化学変化が起こります。生産者は消費者と関わる中で、自分たちに何が足りないのか、強みは何かをお客さまから学ぶことができます。絵を描くことが好きな生産者の方が出荷する段ボールに絵を添えて送り、受け取ったお客さまが感動する。食べもののことだけでなく、自分たちの家族や地域の話をしたり、野球好きの生産者が野球の話を熱く語ったりする。どんなふうに情報発信をしてもよいと思うんです。ポケットマルシェというサービスはこれまでの画一的な流通ではなく、個と個が結びつき百花繚乱する世界になると思っています。

もちろん、生産者と消費者の間に僕たちが入らないのはとても勇気がいることですが、リスクよりも「双方向につながって生まれる価値」にかけたいと考えました。それは「都市と地方をかきまぜる」というコンセプトにも合致しています。それに、僕たちが間に入ってマーケティングやクレーム対応をしてしまうと、生産者の方々は僕たちに頭が上がらなくなってしまい、卸業者や出荷組合との主従関係と何も変わりません。そうではなくて、本当にしなくてはいけないのは、地域の生産者が自分で売れるようになること。生産者が自立していくことが、その地域で生きていく道につながると思っています。

株式会社雨風太陽インタビュー02

社会に与えるインパクトを広報PRで広く発信

──雨風太陽さんからのニュースの発信は年々増えていますし、高橋さんご自身も日々多くの発信をしている印象です。広報PR活動の役割はどのようにお考えでしょうか。

雨風太陽が「なぜ取り組んでいるのか」は継続的に発信するように心がけていますね。また、当社のようなスタートアップ企業というのは、今まで社会になかった価値を創造しているので、「なぜ価値があるのか」もきちんと伝える必要があります。それにはただ事業を展開していくだけではだめで、この事業が社会にどのような新しい価値を提供しているのかを広報PR活動で解説しなくてはいけないと思うんです。

2023年12月に上場し、今後はさまざまな考えのステークホルダーとの関わりが生まれます。今でも時々「なんで能登でボランティアばかりしているんだ」というご意見がダイレクトメッセージで届くこともありますが、それに対して僕たちは腹を立てずに、その方たちにも伝わるように広報PR活動をしなくてはいけないなと思うんです。それが中長期的に見て、われわれの会社の企業価値を高めることにつながるのではないでしょうか。

──これまでやってきたことを踏襲しているのではなく、新しいことに取り組んでいるからこそ、広報PRによる情報発信が大切なのですね。

僕たちは「良いこと」と「儲かること」を両立させたくて上場しましたが、それはとても難しいことで、当初は「きれいごとだ」と言われることもありました。しかし、ボランティアが一部の奇特な人たちだけがやる活動だと思われていては、いつまでたっても世の中は変わりません。きちんと利益を出し、社会にインパクトを発揮していくことで、次の人たちがついてくるようになるでしょう。そこで大切になるのがやはり情報発信です。

自分たちの価値をどのように伝えれば最終的に理解者になってもらえるのか。それを達成できるのは広報PR活動以外にないですよね。僕自身、今もまだ模索中ではありますが、広報PR活動をすることはとても大切なことだと思っています。

株式会社雨風太陽インタビュー03

まとめ:今までなかった価値だからこそ理解を得るための広報PR活動を

既存のビジネスモデルにとらわれることなく、培ってきた知見と大胆な発想力で「地域貢献」と「経済活動」の両立を目指す高橋さん。さまざまな取り組みの土台にあるのは、人と人とのつながりが拓く未来への希望でした。

以下のポイントは、さまざまな業界の広報PR活動においても参考になるのではないでしょうか。

  • 生産者やつくり手の人柄や思いが伝わることで消費者に共感が生まれ、付加価値となり、適正価格での販売につながる
  • 地域課題の解決に必要なのは「自立」。「教える」「助ける」ではなく対等な立場で関わっていくことが大切
  • さまざまなフィードバックに対して、丁寧な広報PR活動で理解者を増やす

1月に発生した能登半島地震の復興支援に真摯に取り組む高橋さんの元には、ポケットマルシェの生産者から「何か自分たちにできることはないか」と声が挙がり、100を超える生産者から多くの食材が提供されています。また、その物資を運ぶための物流費は、消費者が「応援チケット」を購入して負担するという仕組みも実施。

高橋さんが生産者の声に耳を傾け、生産者と消費者がよい関係を築いてきたからこそ実現できたのではないでしょうか。

高橋さんは「自然災害は誰の責任でもなく仕方のないことかもしれないが、一度被災してしまうと自分の力だけで立ち上がることはできない。だからこそ被災地の生産者を孤立させてはいけない。地域と多様に関わる人々、関係人口の創出によって都市と地方をつなぐことが大切」と言います。

この思い、事業の価値をより多くの人に伝え、理解を得られるためには、高橋さんの言う通り広報PR活動が必要でしょう。雨風太陽のますますインパクトのある取り組みと広報PR活動に注目です。

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この記事の監修者

丸花 由加里

丸花 由加里

PR TIMES MAGAZINE編集長。2021年、PR TIMESに入社し、「PR TIMES MAGAZINE」、ご利用企業向けのコミュニティイベント「PR TIMESカレッジ」の企画・運営を行う。2009年に新卒入社した大手インターネットサービス運営会社では法人営業、営業マネージャーとして9年半、その後オウンドメディアの立ち上げに参画。Webコンテンツの企画や調査設計に携わる。メディアリレーションズを主とした広報を経て、現職。

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