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「採用広報」に対する考え。マクドナルドのEVPを発信する理由とは?

「採用広報」の取り組みが有名な日本マクドナルド(以下、マクドナルド)。実は「採用広報」を本格的に始動したのは2016年、まだ5年という歴史とのこと。しかし、広報や採用に携わる多くの人がマクドナルドの採用に関する発信を目にしているのではないでしょうか。

「採用広報」開始から5年。2900店舗超のクルー採用を支えるオウンドメディアリクルーティングに続き、マクドナルドのEVPを「採用広報」としての視点も踏まえ、宮沢泰成氏が語ってくださいました。

日本マクドナルド株式会社 人事本部 フィールドHR部 マネージャー

宮沢 泰成(Miyazawa Yasunari)

1994年、明治学院大学社会学部卒業、同年日本マクドナルドに入社。営業とマーケティングを経て、2015年8月より現職。マーケティング戦略立案、プロモーションを手がけた経験を活かし、マーケティングプロセスに沿った人事領域の課題解決を行う。採用ブランディング戦略や中長期的なクルーブランド成長戦略を2名という少数精鋭体制で策定している。

「EVP(Employee Value Proposition)」、訳すと従業員価値提案。近年EVPについての関心が高まっていますが、マクドナルドは早くから提言していました。マクドナルドのEVPについて伺っていきましょう。

マクドナルドのEVPとは

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マクドナルドのEVPについて語る宮沢氏

ピープルビジネスという考え方 

では、「ピープルビジネス」という考え方、お聞かせください。

宮沢さん(以下、敬称略): マクドナルドは「ピープルビジネス」。「従業員を大切にする」ということは多くの企業で発信されていますし、本当に重視されていると思います。しかし、マクドナルドが面白いのは「ピープル“ビジネス”」と言っていること。要するに「従業員を成長させること自体がビジネス」、さらに「ビジネスをしているそれぞれの地域の最高の雇用主になる」と言っています。これがいかにもマクドナルドなんです。

具体的には、EVPをまずクルーに対してきっちり提供します。そうすることで、クルーの満足度は向上し、そのクルーはお客さまに対して自発的に良いサービス提供します。次に、良いサービスを提供されたお客さまが再来店、顧客増大につながります。そして、セールス増大、利益増大につながるという考え方です。

この考え方は社内で浸透していて、「最初から上の方を獲得しにいってはいけない」「上を取りたいのであれば、目の前にいるクルーに優しくしなさい」という会話がよく出ています。

マクドナルドのピープルビジネス
マクドナルドが考えるピープルビジネスの図

<編集部コメント>
EVPが早くに提言されてきた背景が見えてきました。では実際にどのなようなEVPなのか伺っていきましょう。

具体的なEVP

具体的にどのようなEVPなのでしょうか。

宮沢: 日本ではこれまで「従業員が企業に対してどのような価値を提供するか」ということを起点とした人事施策が設計されてきたと思っていますが、私たちは反対で、「企業が従業員に対してどのような価値を提供できるのか」というところを突き詰めています

EVPを図式化するとこんな感じ。左図のように‟従業員や求職者のニーズ”と‟会社が提供する価値”の重なりが小さいとミスマッチで、そもそも採用につながらないですし、採用できたとしても離職率が高くなっていきます。一方で右図のように重なりを大きくしていくと、採用につながりやすく、採用後も離職率は低くなると考えています。

だからこそ、‟従業員や求職者のニーズ”に‟会社が提供する価値”を寄り添わせていく、ということを一生懸命やっているんです。

EVPとは何か
マクドナルドが考えるEVPの図

宮沢: また、EVPの作り方に工夫があるんです。

左側のような目に見える価値、いわゆるタンジブル価値は作りやすい。‟給料が高いです”、‟賞与が年に2回出ます”、‟休暇が120日あります”……のようなものは、定量的に表せますし、作り込みやすいEVPなんですよ。しかし、結局これは定量的なだけに競合とする企業さんと横並びに見られてしまいます。少しの差異、例えば時給10円の差だけで判断されてしまうと思っています。だからこそ、差別化につながる右側の価値を重要視しています。

自社の職場の価値をどのように言語化するか
マクドナルドが考える職場の価値の図

<編集部コメント>
企業視点ではなく従業員や求職者起点に立った考え方や、タンジブル価値ではなくインタンジブル価値に重きを置いている点などよくわかりました。

今お話いただいたこと以外に、インタンジブル価値として取り組まれていることをお伺いしていきましょう。

Separation(卒業)までを見据えたクルージャーニー

EVPについてお伺いした際に「一番成長してもらえるような環境を提供する」という点がありました。まさに、インタンジブル価値につながるこちら点についてお聞かせください。

宮沢: 各企業でつくっているエンプロイージャーニー。マクドナルドは「クルージャーニー」と呼んでいるのですが、最初の行動は「自分にぴったり合った職場と感じて応募する」というところから始まります。マクドナルドのことをよく知ってもらい、就業するイメージをもってもらった状態で応募してもらえるようにしているんです。年間で半数ものクルーが入れ替わるなかで、応募の時点で極力ミスマッチがない状態をつくるのは重要なポイントなんです。

その後、面接をしてオンボーディング、オリエンテーション。入社後はマクドナルドの価値観を理解してもらいます。その後、今回のキーワードである「成長」につながってくるのですが、トレーニングでクルー自身が成長を実感してもらえる体制を整えています。そのトレーニングで学んでもらい、成長を実感してもらう。そして、良い行いがあれば周囲や会社として積極的にたたえ、次のフェーズでは培ってきたマクドナルドのカルチャーをクルー自身が体現しています。

クルージャーニー
マクドナルド的エンプロイージャーニー(クルージャーニー)の図

宮沢: 体現と言えば、私が店長だったときクルーの休憩室は私自身が掃除していましたね。これはクルーに対する感謝はもちろん、‟人が見てないとこでも正しい行いをする”というカルチャーにも通ずることなんです。‟マクドナルドブランドとして正しい行いをする”‟それは社員一人ひとりがやっていかなくてはいけない”このことは最近あらためて伝えています。

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店長時代の経験を語る宮沢氏

宮沢: そして、次のフェーズでは個々のキャリアを提供できるようにしており、‟日々の成長”だけでなく‟キャリアとしての成長”ができる環境を提供しているんです。ハンバーガー大学教育機関があるのですが、ハンバーガー大学ではハンバーガーの作り方を学ぶわけではなく、マネジメントなど主に人に関することを学ぶ研修です。チームビルディングやリーダーシップ、カウンセリングなど、なかなかテクニカルなことを学べる研修になっています。こうやって、私たちはクルーにも教育投資をきちんとするようにしており、継続的な動機付けをしてるんですよ。

クルージャーニーの話に戻るのですが、最後にSeparation、いわゆる退職のフェーズについてお話しします。私たちがなぜ‟退職”ではなく“Separation”呼んでいるかと言うと、マクドナルドで培った経験が次の仕事においても活かしてもらえる、マクドナルドへのロイヤリティを持ったまま外に出て行くことでそのOBOG自身がアンバサダーになってくれると考えているからです。

アンバサダーから話を聞いた人たちが、「自分もやってみよう」と次のアトラクションにつながっていくというサイクルなんです。

<編集部コメント>
さいごに。EVPを発信する背景について伺っていきましょう。

クルーが働く職場のブランディング、マクドナルドで働く良さを世に広める採用広報を行われている宮沢氏。EVPを世の中に発信するときのポイントについて。

EVPを発信する背景

EVPを世の中に発信するときのポイント

採用に結びつけるためのEVPを発信するポイントはあるのでしょうか。

宮沢: 求職者の行動の最初は「自分にぴったり合った職場と感じて応募する」というところから始まる、とお伝えしました。対象者によって‟自分にぴったり合った職場”は異なりますし、価値があると感じるポイントも異なります。そのため、アプローチしたい求職者に合わせたEVPを設定し、訴求する必要があります。まさに、それぞれの‟従業員や求職者のニーズ”に‟会社が提供する価値”を寄り添わせていく、ということです。

私たちが学生に向けて紐解いたEVPは「就業経験がない→安心して働きたい」というニーズ、主婦・主婦に向けて紐解いたEVPは「家事育児をおろそかにできない→近所で働きたい」というニーズに対して設定しました。そして、その設定したEVPを求職者にいかに訴求するか、です。

 学生と主婦・主夫に向けたマクドナルド的EVP
学生と主婦・主夫に向けたマクドナルド的EVP

Pick Up:宮沢氏が「採用広報」を重視する理由

「採用広報」開始から5年。2900店舗超のクルー採用を支えるオウンドメディアリクルーティングから抜粋して記述しています。

「私たちの業務はクルーが働く職場のブランディングや働いているクルーのことを知ってもらう、そしてマクドナルドで働く良さを世に広めることなんです。まさに、採用広報。」と宮沢氏は話します。

人事で社外、メディアに出せそうなネタや出していきたいネタがあれば、積極的に共有し、常に何かネタがないかアンテナを張っているそうです。

そして、「私も石黒さん(広報担当者)も自身の業務範囲内で仕事をするタイプではなく、常にアンテナを張っています。これは人事に関わらずで、広報に情報が集まるようになるといいですよね。」とお話いただきました。

広報担当に自ら積極的に共有するというスタンス、は宮沢氏のなかでは当たり前のこと。

人事担当者、広報担当者の良い関係性がうかがい知れる取材をさせていただきました。

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インタビュー取材後の撮影にて(日本マクドナルド本社)

(撮影:近澤幸司)

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この記事のライター

丸花 由加里

丸花 由加里

PR TIMES MAGAZINE編集長。2021年、PR TIMESに入社し、「PR TIMES MAGAZINE」、ご利用企業向けのコミュニティイベント「PR TIMESカレッジ」の企画・運営を行う。2009年に新卒入社した大手インターネットサービス運営会社では法人営業、営業マネージャーとして9年半、その後オウンドメディアの立ち上げに参画。Webコンテンツの企画や調査設計に携わる。メディアリレーションズを主とした広報を経て、現職。

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