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EVPとは?現役人事がEVPの項目例・ポイント・メリット・事例など基本知識を解説

近年、メディアでもよく取り扱われるようになった「EVP」というキーワード。そのキーワードについて、基礎知識を解説していきます。

EVPとは?

EVPとは「Employee Value Proposition(従業員価値提案)」の頭文字を取った略語です。これまでのような「企業起点」での企業と従業員の関係性ではなく、企業は従業員に対してどのような価値を提供できるのか、という「従業員起点」での関係性を表す考え方です。

EVPが注目されている背景・理由

企業と従業員の関係性に大きな変化が起きている今、企業が従業員一人ひとりにどのような価値を提供し、従業員に選ばれる企業(Employer of Choice)になるのか、そして人事部門においては、どうすれば従業員に支持・期待される仕事ができるのかを考えていくことが重要です。

近年EVPが注目されている背景として、以下のような変化が挙げられます。

■経営環境の変化

  • 事業のグローバル化
  • 経営指標としてのエンゲージメントの重要性
  • 多様性の確保(ダイバーシティ&インクルージョン)
  • 労働人口の減少と人材流動性の高まり
  • 技術革新による仕事の変化(リスキルの必要性)

■従業員意識の変化

  • 労働目的や企業選択における基準など就労意識の変化
  • 複業(副業)、フリーランスなど働き方の多様化
  • 新型コロナウイルス感染症の拡大による就業環境の変化
平成31年度 新入従業員働くことの意識調査結果
引用:公益財団法人 日本生産性本部(平成31年度 新入従業員働くことの意識調査結果)

経営環境の変化に加え、従業員一人ひとりの企業や仕事に対する意識の変化や、働き方の多様化、さらにコロナ禍における劇的な就業環境の変化(テレワークの普及など)により、従業員が企業を選ぶという選択肢が増えています。このことも、企業がEVPに注目する大きな要因といえるでしょう。

■企業と従業員の関係性の変化

過去 企業 > 従業員(企業に選ばれる従業員)
未来 企業 ≦ 従業員(従業員に選ばれる企業)

新型コロナウイルス感染症の拡大による自身の転職に対する考え方の変化
引用:株式会社ビズリーチ調べ(対象者:ビズリーチ会員、回答期間:2020年4月20日~4月24日)

企業がEVPを設定する3つのメリット

では、企業がEVPを設定するメリットを見ていきましょう。

メリット1.エンゲージメントの向上

EVPを設定する最大のメリットは、エンゲージメントの向上です。企業側から従業員にどんな良い価値を提供できるのかが、EVPの根底にある考え方です。そのため、しっかりとニーズを把握して設計し、従業員が望むタイミングでわかりやすく提供することができれば、エンゲージメントの向上につながります

メリット2.人材流出の抑止と人材獲得力の向上

従業員一人ひとりのエンゲージメントが向上すれば、長期雇用を前提としなくとも、その企業で働き続けたいという意識が生まれます。結果として人材流出の抑止につながり、仮に転職をしたとしても、社外で新たな経験を得てから戻ってきたり(アルムナイ)、転職先との事業連携などといったポジティブな可能性が生まれてきます。

今は多くの人がSNSなどで容易につながり、従業員が企業を評価し、数値化される時代です。だからこそ、社内での評判は社外へ伝わり、従業員が紹介する採用(リファラル採用)や、エージェントを介さない直接応募からの採用などにより、人材獲得力が確実に上がります。

メリット3.自律的キャリア意識の醸成

キャリア自律のためにどんな研修や啓発をしたらいいのかと悩んでいる、人事・育成担当者は多いでしょう。いくら知識としてキャリア自律が大切と伝えても、本人が必要性や危機感を感じていない場合、実際の行動に移すのはなかなか難しいからです。

ですが、EVPが設定されエンゲージメントが高くなったうえで、適切なタイミングで適切に支援することで、常に自分のキャリアについて考えるようになります。そして自社・組織の業績に貢献するために必要なスキル・経験についても考え、成長するという意識の醸成につながります。

EVPとして検討したい設定項目の7つのキーワード

従業員が自社や仕事に対して、エンゲージメントを感じるポイントは多様です。そのため、EVPも多岐にわたって設定する必要があります。EVPとして検討したい設定項目のキーワードをまとめると、次の7つです。

設定項目のキーワード

1.納得

  • 事業内容に社会的意義を感じられる
  • 役に立っている実感が得られる
  • 経営判断や方針に納得感がある など

特に評価に対する「納得」が大事だと考えています。第一歩になるのは、制度についての丁寧な説明や、いつでも知りたいときに制度について調べられる環境です。そのうえで自身の成果をデータとして積み上げられるシステム(期初の成果より期末の成果のほうが評価されやすいなどのバイアスをなくすため)や、短期フィードバックなど、組織にあった仕組みづくりができると、納得感が高くなっていきます。

2.浪漫

  • 自社のビジョンにワクワクできる
  • エキサイティングな挑戦ができる
  • 変化や未知のテーマが多く、なかなか飽きない など

従業員が常に見られる場所に企業・組織が目指している方向性やカルチャーをシンプルに明文化し、掲載し、ことあるごとに経営者自らの声で伝えることが大切です。企業が大きくなると、経営者の言葉が従業員に伝わりづらくなります。ミドルマネージャーの育成などを通じて、経営者自身が描いたロマンを、経営者自身の声で伝える仕組みをつくることが大切です。

3.成長

  • 仕事を通じて成長実感が得られやすい
  • 自身の成長につながる上司・先輩・同僚などに恵まれている
  • 成長を支援する制度や仕組みがある など

人生100年時代と言われていますが、それに伴い働く期間(働かないといけない期間)も長くなっていきます。感度が高く、自分のスキルや経験が陳腐化していないかという危機を感じ続けている従業員は、自社のエンゲージメントが低くなかったとしても、所得より経験を得るために転職を選択するケースも増えていくでしょう。

そのようなケースを防ぐためにも、この企業にいれば成長できると感じられるようにしていく必要があります。臆すことなく挑戦できる機会や研修機会、自分で仕事を選択できる制度(手挙げ式の異動の仕組みなど)づくりが重要です。

4.関係

  • 職場の雰囲気や関係に恵まれている
  • 仕事を通じて貴重な人的ネットワークが得られる  など

コロナ禍の影響でテレワークやワーケーションなど新しい働き方が広がっています。一方で、業務上関係の薄い部署や、他部門の従業員とのコミュニケーション機会が減っています。人間関係はいつの時代も離職理由に大きな影響を与えます。企業としてあえて部署を超えたクロスボーダーなコミュニケーション機会や、心理的安全性の高い場所(趣味の部屋や県人会のチャットルームなど)の提供などの仕組みをつくることがおすすめです。

この仕組みづくりのひとつとして、「HCM(Human Capital Management)」システムなどのテクノロジーを活用した、従業員プロフィールのオープン化も非常に意味があります。従業員が情報を得たいときに、プロフィール検索を利用して相談することができるといったものです。

5.環境

  • 自分の能力が発揮しやすい環境が整っている
  • 働きやすい制度がある など

アフターコロナやポストコロナと言われていますが、この後数年はウィズコロナを前提に仕組みづくりをしていかなければなりません。GAFAやトヨタ自動車など世界を代表する企業が、矢継ぎ早に働き方の選択肢を提示しています。

Face to Faceも重要ですが、出社やテレワークなど働き方を個人が「選択できること」が大事です。またその選択を尊重し、出社しないことを選択した場合でも、テレワークに使う場所で仕事ができる十分なサポート(Wi-Fi環境や電気代補助など)をすることも大切です。

6.金銭

  • 給料がいい
  • 魅力的な福利厚生・特権的扱いがある
  • ステータス欲が満たされやすい など

近年、様々な手当を廃止した年俸制を導入する企業が増えています。また、確定拠出年金など退職金の一部を、個人で運用でき持ち運べる仕組みに切り替えている企業も増えてきています。

住宅手当や家族手当などの支給はありがたいと思う人も多いですが、一方で配偶者・子どもの有無など家族構成によってもらえる人ともらえない人がいることは不公平であると感じる人も少なくありません。特に金銭的報酬(福利厚生)は生活に関わってくる部分ですので、あくまで公平な仕組みとして設計することが重要です。

7.安心

  • 業界や企業としての安定性がある
  • ライフステージに応じた働きやすさがある など

従業員が働き続けるためには、企業が「安心」を提供することが大切です。特にライフスタイルやライフステージが多様になり、出産・育児・介護・病気・配偶者の転勤などにより、従業員は仕事と生活を天秤にかけなければいけないときがあります。そんなときに企業として両方をバランスよくサポートできる勤務制度や休職制度、退職リターン制度などの仕組みがあれば、自社は安心して働ける場所だと感じてもらえます。

制度とあわせて大切なのは、その制度を使うことがネガティブではないこと。いつか自分にも起きうるとだと、マネージャーをはじめ職場の理解を促進する仕組みが求められます。

LINE株式会社青田努氏執筆「仕事における7つの報酬(日経COMEMO)」より

EVPを設定するときの9つのポイント

EVPを設定する際に押さえておきたいポイントを9つ紹介します。施策によって考えるべきポイントは違うので、実施の際にすべてを網羅する必要はありません。

経営者と従業員の関係

1.トップコミットメントとメッセージ

まず、経営者が従業員とどういう関係性を結びたいのか、つまり従業員と一緒にどういう会社づくりをしていきたいのかをはっきりと、そして自らの声で伝えることが何よりも大切です。特に企業変化・変革を考えている企業は、これまでの考え方を整理して、その考え方をどう変化させていくのか、しっかり丁寧に説明することが大事です。

これまで従業員が得ていたメリット(長期雇用など)を変えるのですから、なぜ変化が必要なのか、なぜ今のままだといけないのかなど、理由が必要です。ただ変化を起こしていきたいと一方的に説明するだけでは、従業員の同意は得られません。

2.マネージャー教育

トップがメッセージを発信しても、現場に変化を起こすのは最終的には現場のマネージャーです。テレワークが認められているのに(無言の圧力をかけて)出社を強制したり、自分の過去のやり方を正としてしまったり、自分自身の言葉として説明ができなかったりすれば、良い制度・仕組みがあっても従業員のエンゲージメント向上にはつながりません。

マネージャーの一人ひとりが従業員のエンゲージメントの重要性を理解し、行動に移せるよう教育をすることは、もっとも重要だといえます。

3.マーケティング思考

EVPのVPはもともと、お客様への提供価値というマーケティングの考え方です。人事部門はこれまでの制度設計や労務などの基本スキルに加えて、マーケティング思考が必要になります。従業員をお客様と捉え、何を求めているのか、どの仕組みがどう効いているのかを常に考えるようにするのです。

4.試行と修正

EVPは従業員向けのマーケティングだと考えれば、一度設計したら終了ではありません。そのEVPがエンゲージメントに効いているのか、従業員に必要とされているのかを定期的に把握し、必要に応じて修正していくことが求められます。そのためいきなり全社で実施する前に、一部で試行したり、サーベイにより満足度調査をしたり、使用者にヒアリングをしたりという情報収集をしていくことが大事です。

5.シンプルイズベスト

従業員は人事の仕事を詳しく理解しているわけではないので、自社で設定するEVPに関する施策の前提知識はゼロだという考え方に立つことが大事です。誰に何を届ける仕組みなのか、目的とその使用方法についてあまり複雑にせずシンプルに考えていくと、説明時にもわかりやすくなります。

6.順位をつける

すべての人が満足する仕組みをつくり、提供することは不可能です。そのために順位をつけること、その順位をつけた理由を説明することが重要になります。EVPの多くは設定するのに費用がかかります。大前提として、事業を伸ばすために導入するのだということを忘れないことが大切です。

7.ラストワンマイル(各種手続き・申請の電子化)

良い仕組みがあっても紙による手続きが必要など複雑な場合は、申請時のハードルが上がってしまいます。通信の世界ではラストワンマイルという、通信業者から利用者につなぐ最後の部分の重要性が知られていますが、従業員に対しても同じです。一人一台のPCや社用のスマートフォンのほか、従業員のほとんどが個人のスマートフォンを持っていることを前提にすれば、手続きの簡素化と電子化を進めていくことは非常におすすめです。

8.従業員サポート(相談先)

どんなに素晴らしい仕組み・制度があっても、周知されておらず、使い方がわからないという事態は発生します。そのとき従業員は誰に相談すればいいのでしょうか。社外のお客様向けにカスタマーサポートがあるように、ここに相談すれば最後はなんとかなる! という従業員向けのサポートの仕組みがあると、非常に喜ばれます

9.テクノロジーを活用する、真似する

すべて人の手で行う必要、自社でつくる必要はありません。様々なHRテクノロジーサービスが登場しているので、あるものを使ったり、他社の良い事例の真似をしたりして、工数を減らしつつ、従業員にとって魅力的な仕組みをつくることができます。

EVPを設定している企業の事例3選

ここでは、EVPを設定している企業の事例を見ていきましょう。

大手企業の事例

事例1.ソフトバンク株式会社

従業員のやりがいと誇りを大切にすることを掲げています。会社の志を共有することで働く個人が会社と共に夢を実現する職場でありたいと言う思いから、チャンスや成長を実感できる場、可能性が最大限に引き出される環境、頑張りや成果の承認を実感できる仕組みを提供しています。

参考:https://www.softbank.jp/corp/hr/personnel/

事例2.ソニーグループ株式会社

人材を「群」ではなく「個」と捉えており、自社と従業員の関係性を明文化しています。またサステナビリティレポートの中に「人材」を項目にしており、設定しているEVPが記載されています。

参考:https://www.sony.com/ja/SonyInfo/csr_report/employees/?_fsi=qoXwsPrp

事例3.日本マクドナルド株式会社

「ピープルビジネス」であるため、人の成長こそがビジネスの成長に寄与するとしています。大多数を占めるクルーのEVPを「Flexibility」「Family & Friends」「Future」の3つに定義しており、満足度向上に力を入れています。

参考:https://www.mcdonalds.co.jp/scale_for_good/people_empowerment/

従業員に選ばれる企業、従業員に支持・期待される人事へ

エンゲージメントを高める仕組みイメージ
エンゲージメントを高める仕組みイメージ:筆者作成

ここまで説明してきたEVPを見ると、それは従業員を甘やかすということなのかと感じる方も少なくないかもしれませんが決してそうではありません。企業と従業員の関係性が大きく変化していること、そして人材が経営の最重要なステークホルダーであることを再認識し、「必要な人材」へ「必要な投資」をすることが、結果的に企業の成長につながります

そんな中で、人事部門も役割が変わってきていることを認識しなければなりません。これまで人事はルールをつくったり、日々起こる様々な事象に対応したりと、いわば学生から見た職員室のようなイメージで、敷居が高く、そこで決めたことを従業員が守る、というのが一般的なスタイルでした。

これからの人事部門には、従業員への 「サービス提供者」という役割が求められています。サービス提供者は、マーケティングの視点をもち、従業員が求めている声を聞き、データを解析し、必要な人へ必要な仕組みを届けることが大切です。従業員に選ばれる企業、従業員に支持・期待される人事へ変革を遂げていきましょう。

EVPに関するQ&A

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この記事のライター

中村亮一

中村亮一

NEC 人材組織開発部 タレント・アクイジション エキスパート。<br> 2004年4月に新卒で日立製作所へ入社し、人事総務担当として従事。People Analytics専門の部署を立ち上げ、データ分析・事業立ち上げを担当。2018年に飲み屋で誘われソフトバンクへ入社しHRテック、People Analyticsの社内導入を担当。2020年HRテックスタートアップ 株式会社BtoAの経営に参画した後に、2021年2月より現職。

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