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【イベントレポート】2021年 広報ニューノーマル

「第1回広報・PR オンラインEXPO」は、株式会社宣伝会議が主催する広報・PRに関わる人たちに向けた「オンライン展示会」で、2021年1月26日に開催されました。本レポートはウェビナー『2021年 広報ニューノーマル』の一部内容を掲載します。

講演者
株式会社ベクトル 取締役 兼 株式会社プラチナム 代表取締役 吉柳 さおり
株式会社メルカリ PRチーム マネージャー / グループ広報責任者 矢嶋 聡

2020年広報活動で起きた変化、2021年定着していくもの

2020年、広報活動においてどんな変化が起きたのか振り返り、2021年に定着していくであろうポイントについて3点まとめがありました。

ステークホルダーの見直し

ステークホルダーの見直し

吉柳「『PR・広報』という言葉がメディアリレーションズやパブリシティといった意味合いだけではなく、『パブリック・リレーションズ』という言葉が持つ本来の意味合いに立ち戻ってきています。特にコロナ禍においてより社会に目を向ける必要性が増した中で、統合したステークホルダーリレーションへの見直しが進んだ企業が多かったように思います」

矢嶋「社会環境が変わり生活者の価値観が変化している中で、広報はステークホルダーに対して社会の視点を取り入れたメッセージを一貫性をもって発信していく重要性がより強くなっていくと思います

広報は「話題」創出ではなく「企業の本質的価値(ソーシャルバリュー)」を創出する仕事へ

吉柳「PR会社として、企業の広報担当者と共に企業価値の見直しをご一緒するケースが圧倒的に増えました。いかに壮大なビジョンを掲げていても、SNS時代においては実態が暴かれるため、一貫性のある存在価値を示す必要があります。矛盾があると、逆にマイナスブランディングになってしまいますから」

矢嶋「見せかけのビジョンはバレてしまいます。企業価値をしっかりと言語化して、一貫性あるメッセージとして発信していくことが大事になってくると思います。また、具体的なアクションとして体現したり、さまざまなステークホルダーの方々に体感してもらう機会を創出することも広報担当者に求められてくるのではないでしょうか」

コミュニケーションDtoCが浸透

コミュニケーションDtoCが浸透

吉柳「さまざまなステークホルダーに企業の本質的価値を体感してもらうための手段がかなり多様になってきていると思います。従来のマスメディアのようなメディアを通さなくても直接情報の発信もできるし、受信もできます。このように発信・受信の手段が多岐にわたっている”コミュニケーションD2C”の状態がさらに浸透していくのではないでしょうか」

矢嶋「我々も、もともと”メルカン”というオウンドメディアを運用したり、経営陣が自らSNSを活用したりして情報発信を積極的に行っています。コロナを経て、今まで以上に社会や環境に対する世間の関心が増していると思うので、ダイレクトな発信がさらに重要になっている感覚はあります

PR視点でコーポレートブランディングを行う

PR視点でコーポレートブランディングを行う

吉柳「コロナ禍では、社会に価値ある企業戦略をうみださないと自分たち自身の企業存続が危ういと感じることも少なくありませんよね。実際に企業戦略を見直した・見直す予定という企業が71%にものぼったというデータ(※1)があります」

矢嶋「メルカリの場合はもともと『限りある資源を循環させ、より豊かな社会をつくりたい』という社会に目を向けたビジョンを持っていますが、コロナ禍でさらに社会的な持続可能性に対する受容性が増しているので、より一層メルカリとしてのスタンスやメッセージ発信を強化していこうという流れは社内でもあります」

吉柳「ここで、社会を見据えてビジョンを構築しているメルカリが、コロナ禍に行った事例をご紹介します。本事例には弊社も関わらせていただきました」

メルカリの事例01

矢嶋「『読むレジ袋』という事例です。もともと、身のまわりのモノにも一つひとつに価値があるということを伝えていくために、メルカリ公式Twitterアカウント上でプロの小説家の方にモノをテーマにした小説を連載してもらうという企画があって、今回は、それを一般の生活者の方々にも体感してもらえるよう、レジ袋に小説を印字して配布するという取り組みを実施しました。

本取り組みは、7/1のレジ袋有料化が行われたタイミングで行いました。レジ袋は毎年約450億枚つくられていて、そのほとんどが廃棄されてしまっているそうです。そんなレジ袋自体に付加価値をつけることで、捨てられるモノにも意味があるというメッセージを伝える機会にしたいと思い、取り組みました」

メルカリの事例02

吉柳「テレビ番組では10番組近く取り上げられ、SNSでも何万リツイートもされて話題になっていましたね」

メルカリの事例03
メルカリの事例04

矢嶋「我々が一方的に『循環型社会を創りたいんです』と謳っても、一般消費者の方には伝わりづらいですよね。だからこそ、レジ袋のように手に取れるなど具体的でシンプルな施策が活きてきます。今回のような施策を通じて『実はメルカリさんってこんな考えのもとでやっているのね』と逆引きで体感してもらえるような機会をつくり、それを継続していくことが重要です」

吉柳「一般の生活者が腑に落ちる、巻き込まれていく生活導線をひいたことで、メッセージを体感できるきっかけになったと思います。メルカリの事例からもみえるように、ビジョン・ミッション・バリューを、ステークホルダーにとってリアリティのあるアクションまで落としていくことが必要ですね

(※1)ウェビナー中の掲出資料より。
注: 2020年6月29日-7月8日において、企業を対象としたアンケート調査。
「ウィズコロナ、アフターコロナを見据え、貴社ではどのような企業戦略の見直しを行う予定ですか?または行いましたか?」との質問に対する回答割合(回答数13,184社)。
出所:東京商工リサーチ「第6回新型コロナウイルスに関するアンケート調査」(2020年7月14日公表)を基に作成。

企業のSX(サステナビリティトランスフォーメーション)への広報寄与は?

企業のSXへの広報寄与

吉柳「サステナビリティトランスフォーメーション(以下、SX)とは、『稼ぐ力』を持続し企業自体のサステナビリティ(持続可能性)を高めていくことと同時に、社会のサステナビリティを経営に取り込むことへのビジネス変革のことを指します」

矢嶋「事業として売上だけ伸ばしていけばいいという時代ではないと思うので、中長期としてのビジョン・ミッションの発信を並行してやっていく必要があると思います」

吉柳「社会課題の解決などを考えている企業やブランド、商品に共感が集まるようになり、生活者自身のアイデンティティとして選ばれるようになっています。グローバル調査では、ジェネレーションZの62%がサステナブルなブランドしか消費しないという結果も出ています。

そんな中で私自身は、広報が率先してSXに関連する事項の開発から入り込むべきだと考えています。今までの広報は、社内の価値ある『情報』を集め、発信する役割だったと思うのですが、経営陣とリンクして、社内組織を理解した『実態』(製造・仕組み)を生み出す役割に変化していく必要があるのではないでしょうか」

矢嶋「社外の状況を社内のアクションに取り入れていく、具体化させてファクトをつくっていく上で広報の役割は増しているように思います」

吉柳「広報担当が経営陣に近い位置にいないとできないアクションですよね。たとえば、花王とライオンが協働してスマート物流への取り組みを開始するというニュースがありましたが、まさにSXを体現していますよね。あの仕組みを構築するためには生産ラインから一緒にやる必要があります。会社としてSDGsを重視されているからこそできるのではないでしょうか。結果的にもメディアでたくさん取り上げられていて、ソーシャルアクションに影響する社内組織が構築されています。

メルカリも経営陣自ら積極的にSNS発信しているところなどをみるに、PR視点を非常に重視した組織になっていますよね?」

矢嶋「そうですね。僕らも社会視点を持った情報参謀として、経営陣に対して社会の状況を適切に伝えていくようにしています。上っ面なトップメッセージや嘘はバレてしまう時代なので、経営陣が自分の言葉として語ってもらう必要があると考えています」

ESG×広報

ESG×広報01

吉柳「つづいて、ESGについてお話していきたいと思います。ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字を取ったもので、それぞれの分野に配慮した経営スタイルを指します(※2)」

(※2)ESG経営の具体例として資料内で紹介された事例
・ANNnewsCH「投融資の判断に「ESG」採用 日本生命が来年4月から
・日経新聞「住友化学、ESG経営を加速 廃プラ削減などに力
・日経ESG「金融庁・氷見野長官「ESGは金融機関の経営に不可欠」
・環境ビジネスオンライン「花王の成長戦略 ESGを経営の根幹に据えビジネスを展開
・日刊ケミカルニュース「積水化学 長期ビジョンを始動、ESG経営に注力

ESG×広報02

吉柳「こちらは、ベクトル社と九州大学がおこなった共同研究の結果ですが、ESGスコアが高いと株価が上がるということが判明しています。ESGスコアに寄与する活動を発信していくことが重要になるため、まさしく広報の役割が重要になるところになります」

ESG×広報03

吉柳「メッセージとして発信しているかだけでなくきちんとアクションしているのかというところを綿密に調査し、ESGスコアを算出しています。このESGスコアを”ニューノーマル広報”のKPIとして設定し数値を高めていくことで、コーポレートブランディングとマーケティングコミュニケーションの両輪で社会にとって価値ある企業になっていくことを推進できたらと思っています。

そして今回、メルカリのESGスコアも簡易的に調べさせていただきました」

ESG×広報04

吉柳「10点満点中2.8点という結果でしたが、IT企業の中では高い数値になります。地域活動への貢献や働き方の改善・ダイバーシティ推進など社会に貢献するアクションを表す度合いであるS項目が高いのが特徴です。サステナビリティレポートや社員のアクションを発信されている、という具体的なアクションが評価されています。また、Co2削減や環境汚染の回避など、環境に配慮したアクションを表す度合いであるE項目が0なのですが、toC向けのプロダクトを開発していないIT企業だとこのスコアを上げるのが難しいところではあります。この分野で今後取り組みたいアクションはありますか?」

矢嶋「リユースを促進することで、環境負荷軽減への効果を見える化していきたいと考えています。

また、二次流通で売れている情報を一次流通に届けることで”捨てられないものづくり”の促進につなげたいと思っています。何が売れるのかわからないから、大量生産・大量廃棄につながってしまう。そこで我々メルカリの二次流通データを提供しし、本当に必要な分だけ生産していける体制づくりに貢献したいと経営陣とも話しています」

吉柳「メルカリにとって短期的な利益だけを考えると、不要なものがたくさん生み出された方が都合が良いところだと思いますが、そこは社会的な目線を持ってアクションされていますね。まさに自分たちの利益を度外視したソーシャルバリューアクションだと感じました」

まとめ

広報ニューノーマル2021

本ウェビナーでは、『2021年 広報ニューノーマル』と題して、コロナをきっかけに大きく変化した社会の中で到来する「新常態」に対して、広報・PRに関わる人がどんな視点を持つべきか、また、具体的にどのようなアクションを起こしていくべきかについて語られていました。

  • 2020年広報活動で起きた変化、2021年定着していくもの
    ①ステークホルダーの見直し
    ②企業の本質的価値を創出
    ③企業が自らニュースを創出して発信
  • サステナビリティに注目が集まる中で、社会に価値ある企業戦略をPR視点からブランディングしていく必要性
  • 企業のSXが必要な時代の到来
  • 長期的な視点で企業のあり方を再考したESG経営を目指した広報アクションの策定

コロナ禍における変化を敏感に捉えて本質的な企業価値を創造し、かつ、PR視点を持ってステークホルダーに対峙することがより一層求められてくるでしょう。

(ライター・林 優/編集・PR TIMES編集部)

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この記事のライター

林 優

林 優

サイバーエージェント新卒入社、Makuake配属。イベント企画・運営を担当するとともに、ガジェット・ファッション・飲食店・日本酒…など、毎月数百件開始するプロジェクトの広報業務を担当していました。多岐にわたるジャンルのプロジェクトPRを担当する中で積んできた広報業務経験を活かしたコンテンツづくりに取り組んでいます。

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