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【有識者コメントまとめ】新型コロナウイルスに対する企業の情報発信はどう対応する?

連日報道されている新型コロナウイルスのニュース。企業における大規模なリモート対応や大型施設の閉館、政府より要請された全国規模の臨時休校など、わたしたちの生活に多大な影響を及ぼしています。

日々刻々と状況が変化するなか、自社をとりまく関係者、ひいては社会に対して情報発信を行う役割の広報PR担当者は、平時以上に冷静かつ迅速な対応が求められます。では、危機管理の観点からどのような点に気を付けて行動するべきなのでしょうか。

本稿では「情報発信」に従事する皆さまに向けて、広報やブランディングのプロフェッショナルである4名の方々から、危機管理に関する考え方や行動のアドバイスについてコメントを寄せていただきました。今後の広報判断の一助として、是非お役立てください。

特に以下のポイントについて、4名の方にコメントを頂いております。

  • 新型コロナウイルスに世間の注目が集まる中で広報PR活動(コロナウイルス関連/一般情報含め)はおこなうべきでしょうか
  • どのような広報PR活動(新型コロナウイルス関連/一般情報含め)をおこなうべきでしょうか
  • 情報発信をおこなう場合は、どのような点に気をつけるべきでしょうか
  • 自社が新型コロナウイルスへ何らかの対策をとった場合、どのように発信するのが良いでしょうか

常に最悪のケースを考え、平時以上に「リアルタイム広報」が望まれる(野呂エイシロウさん)

野呂氏:まず、この時勢の中で「どのように広報すべきか」という問いについては、社員に感染者が出た場合も想定し、自社コーポレートサイトやプレスリリースの原稿作りをしておくことが必要です。加えて、自社で施設や店舗を運営している場合は、それらの場所で感染者が出た場合も想定しておきましょう。

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野呂 エイシロウさん

次に、スポーツジムや飲食店などはすぐに消毒対応をするとともに、営業状況や閉鎖の発表、社員の対応を公表するのが先決です。事例としてマクドナルド社の「店舗における感染症予防の取り組みについて」がとても参考になります。広報の姿勢としては、常に最悪のケースを考え、経営者とホットラインをつなぐのがベスト。平時以上に「リアルタイム広報」が望まれます。

過剰に情報が溢れている状況を鑑みると、自社の対応や対策と関係のない情報(予防策など)を呼びかけるのは適切ではありません。この事態において、必要な視点は「自社製品やサービスが人々の役に立つか」です。

抗ウイルスの対策製品を持つ会社であれば、情報発信は必須の対応と言え、マスクやトイレットペーパーなど紙製品を持つ会社であれば、数値や期日をいれた形でリアルな情報を適切に伝えることが必要です。すぐに役立つTwitterやマスコミの力を借りながら情報発信を行いましょう。

情報発信は自社のコーポレートサイトを先決とし、その後は一次情報としてPR TIMESのような場所で公表するのが望ましいです。常に他社の動向にアンテナを張り、大きな発表があれば、すぐにその会社の情報を見にいくこと。すぐに学んで情報を収集・蓄積をすることが重要です。刻々と変わってゆく状況の中で、自分達に出来ることを明確にしていきましょう。

野呂エイシロウさん プロフィール

放送作家/PRコンサルタント/株式会社MIP 取締役/アンカー株式会社 顧問

1967年生まれ。出版社を経て、放送作家へ。大手広告代理店をはじめ、自動車会社、家電メーカー、飲食チェーン店、飲料メーカー、学習塾など、多岐に渡る分野で戦略的PRコンサルタントとして活躍。著書に『マイケル・ジャクソンの靴下はなぜ白いのか?』(ぱる出版)『ネクタイを3本買う人はなぜスゴイ仕事ができるのか』(祥伝社)『テレビで売上100倍にする私の方法』(講談社)『プレスリリースはラブレター』(万来舎)など。

https://ameblo.jp/e-noro/

「顧客との約束」の中で打ち手を発信し、ブランドの存在意義を伝える(中村正道さん)

中村氏:ブランディングの観点から質問にお答えすると、この状況下の中でもブランディングの本質を捉えて行動していくことが必要だと考えられます。ブランディングの本質とは、全てのビジネス活動を総動員して顧客の意思決定に影響を与えることで、資産としてのブランド価値を最大化させることです。ブランディングの対象となる組織が企業であれば、ブランドは事業戦略と一体の関係に位置付けられます。

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 中村 正道さん

つまり、ブランディングの観点からみた「企業の情報発信」としての広報PRは、(それ自体が独立した活動ではなく)全社で取り組む活動の一つとして、事業戦略の目標達成を目指すものであることは言うまでもありません。

ブランドプロミス

連日コロナウイルスに世間の注目が集まる中では、対処療法的な自粛活動へのフォーカスではなく、コロナウイルスへの対策の中で、企業やブランドの能動的な打ち手を「顧客との約束」という文脈の中で発信することが、危機管理が求められる状況下におけるブランディングにおいても大切です。

「何をやっているか」だけではなく、「なぜやっているか」をブランドの存在意義の視点から情報を伝えることが、”コロナウイルス”後にブランドが浮上するか沈むかの分かれ目ではないでしょうか。

中村正道さん プロフィール

株式会社インターブランドジャパン エグゼクティブ・ディレクター

外資系広告会社でブランド/マーケティング・コミュニケーション領域において多岐にわたるプロジェクトに携わり、2005年よりインターブランドに参画。クライアントサービス&ソリューション部門のディレクターとして、幅広い業種のクライアントとのリレーションシップ構築を推進し、クライアントのビジネス課題解決に向け、ブランド戦略プロジェクトをリードする。またBest Japan Brands、Japan Branding Awardsなどの広報活動を通じ、日本におけるブランディングの啓蒙を推進する。著書に「ブランディング (日経文庫)」(日本経済新聞出版社/2019年)、「ブランディング7つの原則」(共著/日本経済新聞出版社/2012年)、「ブランディング7つの原則[実践編]」(共著/日本経済新聞出版社/2019年)など。

https://www.interbrandjapan.com/ja/

会社の「公式見解」を作成し、社内外に発表することを推奨(山見 博康さん)

山見氏:「広報は、人(自分)と会社を一致させよ!」が私の思想です。会社を親、社員を小学生以下の子供、関係会社・協力会社等を親戚とするならば、まず子どもは、物事への恐れを知らず、何をやるべきかも分かりません。ですから、親、つまり会社(広報)の立場としては、的確・正確な知識を与え、公的な根拠を示しながら、最悪の事態も想定して必要な手を打つ必要があるのです。危機に遭遇した時、親としてどんな言動すれば尊敬される・頼られるか?を考えれば判りやすいでしょう。

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山見 博康さん

 今回の新型コロナウイルスは、企業不祥事や事件・事故と異なり、天災・災害と見なし、全社・社員一丸となって、迅速かつタイムリーな“危機対応”を行う必要があります。そのお手本として、NHK「ダーウィンが来た!」で動物の厳しい危機対応法をじっくり観察し学ぶのもひとつといえます。

広報としては、まず「緊急対策本部」を設置し、“情報基地”としての機能を果たしましょう。刻々と変化する政府発表資料や新聞・テレビ等からの情報により、会社としての基本的な考え・対応を、その都度統一する必要があります。その上で社員に対しては、取るべき「対応」の指示をしましょう。出来るだけ個々の判断に委ねないことが大切です。(例:熱が37度以上の場合は休む、マスク着用、手洗い・うがいの励行など)

また、状況に応じて会社の「公式見解」を作成し、顧客・取引先・官公庁・IR関係・主要銀行に加えて社内各部署にも、夫々の部署から伝達すると共に、自社コーポレートサイトに文書を掲載。メディア向けには「公式見解」をもとに適切なニュースリリースとして公表するなど先手を打ってタイムリーに対応しましょう。社外公表は、積極的に行うことを勧めます。社内外に発表することで、会社の姿勢を統一見解として公式に伝える(あるいは伝えようする)姿勢が明確になり、不安を除き、危機への積極的対応を全社で統一して対処・克服することができるからです。

その要諦とは「真の雄弁とは、言うべきことを全て言い、かつ言うべきことしか言わないところにある」(ラ・ロシュフコー)として、ニュースリリースは公式文書故に、伝えるべき数字や表現を含む必要事項を網羅することが肝要です。それによって、①記事の語尾がばらつかず統一できる、②反対のことを書かれたら訴訟する権利を留保できる、のです。

巷間、“ニュースリリースには最低限記述し、Q&Aで対応”との風潮も散見されますが、これは、記事の本質を理解していないと言わざるを得ません。企業の真意・意図・戦略が明確に現れる語尾の表現こそ、記者に委ねてはいけません。大変危ういことです。

そして、「先走らないこと」も重要です。過剰に不安を煽ることのないよう、公式見解を重視し根拠を明確にします。政府からの発表に呼応して、“直ちに”手を打つスピード感と共に、上意下達で社内対応を徹底することが必要です。

そこでは、「或ることをなしたために不正である場合のみならず、或ることをなさないために不正である場合も少なくない」(アウレーリウス『自省録』)ことを肝に銘じ、“不作為の罪”を犯さないように、考えられる好転の手を着実に打つのです。

山見 博康さん プロフィール

広報PR・危機対応コンサルタント

1968年九州大学経済学部卒業。神戸製鋼所入社、秘書室広報係長・課長・次長・広報 部長、ベンチャー企業及びコンサルティング会社出向を経て2002年に独立。米国ダートマス大学経営大学院マネジメントプログラム修了。3カ国10年に及ぶ海外駐在や大小企業における豊かな体験と有力企業の広報担当者、有力メディア幹部との広範なネットワークを活かし、常に先端情報を交えた実践的な指導には定評がある。 主著に「広報の達人になる法(ダイヤモンド社、2005年)」「広報・ PRの基本(日本実業出版社、2009年)」「企業不祥事・危機対応広報完全マニュアル(自由国民社、2013年)」。「新版広報・ PRの基本(日本実業出版社、2020年)」「広報・PR」関係の著書は15冊超で論文多数。

https://yico.co.jp/

広報が率先して経営陣に提言。行動の早さがカギ(栗田朋一さん)

栗田氏:“世の中のピンチは広報のチャンス”。絶対にするべきです。まずは、会社としての対応策や指針を決め、プレスリリースで情報発信しましょう。

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栗田 朋一さん

対応策であれば、リモートワークや時差出勤への切り替え、発熱や倦怠感のある社員の出社禁止、自社主催イベントの中止、打合せや面会におけるオンライン会議利用の奨励など、会社として決定した方針をリリースにまとめ一斉配信します。

情報発信の方法は、SNSの公式アカウントを駆使しながらも、広くあまねく発信できるプレスリリースが良いでしょう。もし経営陣の反応が鈍い場合は、こういう時こそ広報担当がアンテナ高く外部情報を集め、自社に置き換えて分析し、率先して社長に提言し会社を動かす、という一連の行動をとるべきです。こういった意識の高さ、行動の早さに、広報担当としての力量の差が出てきます。

また、「自社がよければよいのか」という誤解を与えかねない表現や伝え方には、十分配慮すべきです。例えば、「社員のPCR検査を全員実施」という情報を出したとすると、気になる症状がある中で検査の順番が回ってこず、不安になっている人の心象に対して配慮を欠いた発信となってしまいます。加えて、社員を守る施策をいち早く実施するのはよいことですが、外食業界、教育業界、レジャー・宿泊施設、交通・旅行業界など、業界全体が甚大な被害を受けているとしたら、全体の被害をどう食い止めるかも考えるべきです。

そして、十分な配慮は必要ですが、社会性の高い事象としてメディアがコロナウイルス関連の情報に注目しているのも事実。コロナウイルスの影響を受け困っている方々への救済や、自社製品が重宝されている意外なケースなど、“小ネタ”を記者やディレクターにメールで共有したり、会って雑談ベースで話したりしていくことも有効です。今だからこそ必要とされるストーリーを、積極的に作りましょう。

3.11で広報対応を経験している人は特に、社会性の高いことにスピーディーに取り組み、メディアを巻きこんでいく重要性を理解していると思います。やるべきことをやっているのに、沈黙しているのは何もやっていないのと同じ。“世の中のピンチは広報のチャンス”という意識を持って、今回のコロナウイルスへの広報対応を堂々と行ってほしいと思います。

栗田朋一さん プロフィール

株式会社PRacademy 代表取締役

大学卒業後、事業会社の広報を6年、PR会社を4年経験。2007年から株式会社ぐるなびの広報責任者として6年半在籍し、2014年6月に退社。 現在は、広報担当者の教育・育成を手がける株式会社PRacademyの代表を務める。マスコミキーマンを講師に招いた勉強会や、記者と広報を集めた交流会を主催し、本当に使える広報ノウハウの伝授やマスコミ人脈の紹介を行う。企業の広報担当者に伴走しながら基礎的な広報業務全般をサポートするコンサルティング業務も行い、東京だけでなく大阪、福岡にも展開中。著書に、『最強のPRイノベーターが教える 新しい広報の教科書』(朝日新聞出版/2014年)、『現場の担当者2500人からナマで聞いた 広報のお悩み相談室』(朝日新聞出版/2018年)がある。

https://pr-academy.jp/

広報対応の一助となる情報をお届けしていきます

今後も常に状況が変動することが予測される新型コロナウイルスについてのトピックス。情報発信の要となる広報PR担当者は、引き続き難しい判断を迫られる場面もあるでしょう。

自社で対応方針を定め、平時以上にスピード感を持った対応ができるよう、有識者のコメントもぜひ参考にしてみてください。PR TIMES MAGAZINEでは、引き続き新型コロナウイルスに関連する広報PRの対応について、読者のみなさんの一助となるような情報発信をおこなっていきます。

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この記事のライター

名越 里美

名越 里美

PR TIMESの人事本部長。PR TIMES MAGAZINEの立ち上げチームの1人。MAGAZINEの力で「PRの民主化」に一歩ずつでも近づけるよう、裏側から変わらず見守っていきます。4歳息子とバトルする日々です(だいたい負ける)。あと、だいたいいつも走ってます。

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