企業が海外進出を目指す際、広報PR担当者としての責務や目標を果たせるのか、不安を感じる方もいるのではないでしょうか。日本とは異なる市場で展開するため、ハードルの高さに悩まされることもあるかもしれません。製品や技術の強みだけでなく、さまざまな人や企業との協力関係を築くことが重要です。
プレスリリース配信サービス「PR TIMES」を運営する株式会社PR TIMESは2025年6月25日、ファンピッキング株式会社とともに、「つながる広報。世界への挑戦」をテーマとしたセミナーを共催しました。
本記事では、浜松市(静岡県)に本社を置く、リンクウィズ株式会社の吹野 豪さんと、株式会社ソミックマネージメントホールディングスの村山祐子さんによるお話をご紹介。海外進出における広報PRや国外への発信を担う方にとって、ヒントとなる内容をお届けします。

リンクウィズ株式会社 代表取締役
パルステック工業株式会社へ入社後、3次元スキャナ事業開発を担当。その後、浜松市のソフトウェアハウス株式会社アメリオにて取締役として業務を推進し、2015年3月にリンクウィズ株式会社を創業。2015年経産省主宰「始動 Next Innovator」シリコンバレー派遣メンバー選出。2019年経産省主催「J-Startup認定企業」に選出。

株式会社ソミックマネージメントホールディングス(SMHD)グローバル経営変革推進部 コミュニケーション推進室 室長
新卒で株式会社ソミック石川へ入社後、3代にわたる社長秘書を担当、社長交代、100周年の社史編纂、周年事業など会社の歴史に関わる。ソミックグループ内の事業再編でソミックマネージメントホールディングスへ。2020年コミュニケーション推進室設立と同時に現職。広報、地域共創、ブランディング全般を担当している。
製造業の真の課題を解決する|リンクウィズ
産業用ロボット向けの制御ソフトウェアソリューションを開発・提供するリンクウィズ株式会社は、「製造業の集積地域」のひとつ、静岡県浜松市で創業したスタートアップ企業です。経済産業省により「地域未来牽引企業」に選定された実績があり、現在は「L-QUALIFY」「L-ROBOT」「LINKWIZ FACTORY CLOUD」の3製品を展開しています。
設計や医療機器向けのソフトウェアの開発を担ってきた吹野さんが掲げるビジネスの理念は、「Noblesse Oblige(※)」。多くのデータを用いて「世界に対して何ができるのか」を軸に活動してきたといいます。EVショックやコロナ禍を乗り越え、約30名の従業員とともに切磋琢磨する吹野さんに、製造業の課題や理想の工場実現に向けたソリューションについて伺いました。
※Noblesse Oblige(ノブレス・オブリージュ):社会的地位や権力を保持するためには、相応の義務と責任感が伴うという考え方。
製造業における3つのリスク
製造業には現在、大きく3つのリスクがあると考えています。
1つ目は、「人が少なくなっている」ということ。製造現場で汗をかいて働くことに魅力を感じない若い人たちが増え、溶接や金属加工の現場では働く手が年々減少しています。
2つ目は、「流通の混乱」です。世界中のいろいろなところで紛争が起こっているという情勢が要因で、流通が混乱すると製造コストも上がります。
3つ目は、「生活者が完璧なものを欲している」という点です。例えば、車を1台買う際でも、少し傷があることで「この商品はダメだ」となりますよね。そのため、品質管理という点で非常に大きなリスクとなるんです。
私たちは、こうした3つのリスクに対して作用するソリューションを開発しています。
真の課題は、「自動化」と「人の育成」の遅れ
製造業の現場では、「人が足りない」「残業が常在化している」といった声をよく聞きますが、本当の課題というのは別のところにあると思っています。
例えば、人手不足を解消しようとして採用数を急に増やしても、状況が改善するわけではありません。人手不足という問題はすぐに変えられないからこそ、スキルの転換をして自動化できる部分は変えていく。こういった判断ができていないということが課題のひとつだといえます。
また、これまでのようにメーカーが下請けを支えてくれる状況ではなくなっています。それならば、会社として今、どうやって生き残っていくか、どうやってコストを圧縮し利益を上げていくかを考え、話をしなければなりません。
ここで、スキルの転換・人材・経験について、未来に向けて考える能力が小さくなってしまっていると感じています。「人を育ててこれなかった」という真の課題から目を背けないことが重要。そして、熟練の技の継承はロボットでもできるということを提案していきたいですね。
理想の工場を目指して
皆さんにとって「理想の工場」とは、どういうものでしょうか。製造業の方には結構盛り上がる話題かと思いますが、実際には明確にイメージできている方は少ないと思います。
私は2017年、ドイツで開催された「HANNOVER MESSE(ハノーバー メッセ)」(※)で、その答えを導くヒントを見た気がするんです。Siemens(シーメンス)が展示していた「ファクトリーエッジコンピューティング」では、ロボットが工場内を自由に動き回り、あらかじめ決められた製品だけでなく、個別仕様に応じて多様な製品を次々と製造していく。頭では理解できるものの、これを当時実現している工場はありませんでした。私たちはこうした市場に着目し、3つのプロダクトを開発してきました。「L-ROBOT」で動きを補正し、「L-QUALIFY」では検査工程をロボットに代わってもらう。そしてデータを繋いで、工場の品質の変遷をリアルタイムでわかるようにしたのが「LINKWIZ FACTORY CLOUD」です。
※HANNOVER MESSE(ハノーバー メッセ):「製造業の未来を見せる国際展示会」として知られている、製造業・エンジニアリング・エネルギー・ITなどの分野における最先端技術やトレンドが世界中から集結する催し。ドイツ政府が提唱する「インダストリー4.0(第4次産業革命)」構想を世界に広げることにつながった。
私は海外の大学に通っていました。また、アメリカの製造業に携わり、その後ドイツやイギリスに転勤し各国の製造業も経験してきましたが、やっぱり日本の製造業が好きです。
かつて日本が世界と肩を並べていた時代とは状況が変わりつつありますが、私はリバイバルできる未来があると信じています。その実現に向けて、自らのプロダクトや技術がキープロダクトやキーテクノロジーとなれるよう、今後も努力を重ねていきたいですね。

「守りの広報」から国内外への発信体制へ|ソミックマネージメントホールディングス(SMHD)
浜松市と磐田市に拠点を置き、自動車部品の製造を手がけるソミックグループの事業統括会社、株式会社ソミックマネージメントホールディングス。ハンドル操作に応じてタイヤの向きを変える動きを支える、重要な部品を取り扱っており、日本国内のみならず、アメリカ・中国・インド・タイ・フランス・インドネシアの6ヵ国に展開するメーカーです。
「これまで積極的な広報活動をしていなかった」と言う村山さんですが、この数年で複数のチャネルを活用し、企業変革に向けてさまざまな取り組みを実践しています。
自動車業界の大変革期に広報PRも刷新
当社では長年、外向けの広報PR活動には力を入れてきませんでした。
お客さまとの確固たるパートナーシップを築いてきたこともあり、新たな市場にアプローチする必要を感じていなかったからです。また、「製造業は派手にすると儲かっていると思われるからあまり目立つな」と言われる時代があったくらい、特有の価値観を持つ業界だったことも起因すると思います。
しかし、2018年頃から自動車業界は“100年に一度の大変革期”に突入するなど、製造業界を取り巻く外部環境は大きく変化しています。必要最低限の広報PR活動をしてきた私たちですが、自分たちだけで完結するのではなく「自社の強み」と「パートナーの強み」を掛け合わせて新たな価値を生んでいくために、共感者を増やす必要がある。そのためには広報PR活動が不可欠であると考えるようになったんです。
パーパスとアイデンティティを可視化&ビジョナライズ
共感していただくための最初のステップとして、「自分たちが何を生み出しているか」「どんな世界にしたいのか」を明確に言語化・視覚化し、私たちが目指すパーパスとアイデンティティを策定しました。パーパスは、「次世代へ笑顔をつなぐ」。このパーパスを実現するために、私たちがどんな存在でなければならないかを示したのが「製造業を変革し、創造する」というアイデンティティです。また、パーパスとアイデンティティだけでは伝わりきれらない思いを届けるため、社長自らが語ったムービーも制作しました。
そして、パーパスが実現したとき、どんな世界になっているかをビジョナライズしたのが「ソミックソサエティ」です。世界中の人々が創造・挑戦できる社会づくりを目指し、社会課題解決に挑戦していこうという意思を込めています。
積極的な発信で共感・仲間づくりに成功
パーパスとアイデンティティを絵空事で終わらせないため、新しい取り組みを進めています。
それらを広くを伝えるため、オウンドメディアの運営をはじめ、Webメディアやマスメディアとの連携など、多様なツールを活用するようになりました。コーポレートサイトに載せたムービーは、字幕付きにしたことで海外からのお客さまにも視聴いただき、アジアやアメリカ、アフリカなど多くの国の方から共感を得ていることがわかったんです。
記者発表の場には、パートナー企業の方が同席したこともあります。「共に未来を創造する」という私たちの意志を社会に発信できただけでなく、より深くビジョンを理解いただく機会になり、パートナーの方との関係性強化にもつながったと感じています。
また、「森林健康経営」や「中高生向けの学びのプログラム」など新しい取り組みを発信したところ、地域の企業の方々からの認知も増え、多数の協賛を獲得。「ぜひ次回も参加したい」という声もいただいています。まさに仲間づくりにつながったと実感した事例です。
新規事業創出とグローバル市場へ展開
今後は、新規事業創出とグローバル市場への展開を見据えています。すでに6ヵ国に進出していますが、これまでは海外での広報PRの経験はありません。今後は、海外に向けた広報PR活動にも力を入れていきたいと考えています。まずは、海外のスタートアップ企業とのマッチングを目指して、海外での展示会出展を進めているところです。私たちのパーパスやアイデンティティに共感してくださる企業と出会い、新規事業の創出、グローバル市場への展開につなげていきたいと思っています。
また、記者の方に私たちの世界観や戦略を理解していただくため、メディアリレーションズの強化も図っています。グローバル採用を意識して、さまざまなイベントへの登壇も積極的に行うようになりました。
企業変革の一端を担うのが広報の役割。私たちはソミックソサエティをグローバルで実現していくことを目指して、これからも企業変革、そして挑戦を続けていきます。

古い価値観にとらわれず、積極的な発信で世界を目指す
製造業ならではの課題解決を目指しプロダクト開発に励む吹野さんと、部品メーカーとして積極的な広報PR活動に注力する村山さん。それぞれ異なる視点から、製造業界をどのように捉え、自社サービスを成長させていくのか、ご自身が取り組まれてきた経験をもとにしたお話を伺えました。特に、海外展開に向けた取り組みについては、参考になったのではないでしょうか。
お二人のお話から見えてきたポイントは、次の2点です。
- 製造業界の課題は「人手不足」ではなく、「自動化への対応遅れ」
- 共感者を増やすには、理解を深めるための「積極的な発信」が必要
複数の国で製造業を見てきた吹野さんの「日本の製造業が好き」「リバイバルする未来がある」という言葉に、励まされた方も多いことでしょう。一方、村山さんの経験からは、「守り」の姿勢を取ることが多かった製造業界においても、社外への発信が必要とされている背景がわかりました。
お二人の考えが共通していたのが、「メーカーの下請けとして安心できる状況ではなくなっている」という点。ぜひ、企業や業界の変遷に目を向け、海外進出に向けた広報PR活動のあり方を再考する機会にお役立てください。
「つながる広報。世界への挑戦」開催概要
日時:2025年6月25日(水)15:00~17:40
会場:SUMIDA INNOVATION CORE
主催:ファンピッキング株式会社
共催:株式会社PR TIMES
協賛:花の舞酒造株式会社
協力:SUMIDA INNOVATION CORE
後援:浜松市
当日は、協賛企業である花の舞酒造株式会社の高田謙之丞社長も参加。講演の後には、同社の商品が振る舞われました。
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