企業が社会との関係性を築き、信頼を得るためには、「何を行っている会社か・提供している会社か」だけでなく、「なぜそれを行っているのか・提供しているのか」といった背景まで伝えることが重要です。このように企業の姿勢や価値観を示していくために、コーポレートコミュニケーションの見直しを図る企業も増えているのではないでしょうか。
本記事では、コーポレートコミュニケーションとは何かという基本的な概念から広報との違い、実践的な手法や成功のポイントをわかりやすく解説します。
コーポレートコミュニケーションとは
コーポレートコミュニケーションとは、企業が株主、顧客、従業員、地域社会、メディアなど、あらゆるステークホルダーと信頼関係を築くために行う、戦略的な情報発信および関係構築活動を指します。広報PRやマーケティング、CSR(Corporate Social Responsibility)、IR(Investor Relations)、社内広報など、これまで部門ごとに分かれていた機能を統合的に設計・運用することで、企業全体として一貫したメッセージを発信することが可能になります。
また、コーポレートコミュニケーションは企業ブランドの価値向上や評判管理(レピュテーションマネジメント)とも密接に関わっており、経営とコミュニケーションをつなぐ「企業の対外姿勢の司令塔」としての役割も担っています。

コーポレートコミュニケーションの役割
コーポレートコミュニケーションは、企業と社会をつなぐ橋渡し役として、経営と現場、社内と社外を結ぶ機能を果たします。情報発信だけでなく、顧客、株主、社員、地域社会など多様なステークホルダーと双方向の対話を行い、その声を経営に還元する関係性の構築が主な役割。
近年では、パーパス経営やレピュテーションマネジメントの重要性が高まっており、企業の理念やESG方針を一貫して伝えることによって、社会からの信頼を積み重ねていく姿勢が求められます。また、社内広報や採用広報、インナーブランディングとも連動し、社員一人ひとりが共通の価値観を語れる組織づくりを推進することも重要です。
社外への発信と社内の整合性を両輪で進めていくことが、結果として企業価値の向上につながるといえるでしょう。
コーポレートコミュニケーションの重要性
インターネットやSNSの発達により、情報が一瞬で広まり、企業を取り巻くステークホルダーも多様になった現代では、企業が「どう語り、どう振る舞うか」が信頼に大きく影響します。単に広報PRを強化するだけではなく、企業の存在意義や価値観を、社内外に向けて一貫して伝え、長期的な共感を得ていくことが、コーポレートコミュニケーションの大きな特徴です。
いまは商品だけでなく、企業そのものの姿勢が問われる時代。ESGやサステナビリティ経営といったテーマをふまえ、企業としてどのように語り、行動するかが注目されています。また、炎上リスクや風評被害、採用難、社員の帰属意識の低下など、さまざまな課題に対応するためにも、日頃からの誠実な対話を通じて、信頼の土台を築くことが求められています。
コーポレートコミュニケーションと広報との違いや関係性
広報は、企業の存在や活動を社会全体に伝え、主にメディアを通じた接点づくりを担う役割があります。一方で、コーポレートコミュニケーションは、従業員をはじめ、顧客、株主、地域社会など、より幅広い社内外のステークホルダーと信頼関係を築くための活動です。
広報は情報提供や報道対応など、「伝えること」が中心ですが、コーポレートコミュニケーションは、IR、CSR、社内広報、リスクマネジメント、ブランディング、パーパスの浸透など、多岐にわたる分野を含み、より経営に近い視点で展開されます。
ただし、両者はどちらが上位というものではありません。それぞれの役割を活かしながら連携することで、企業の信頼性やブランド価値を、より長期的に高めていくことが可能になります。
コーポレートコミュニケーションの主な手法
ここからは、コーポレートコミュニケーションを実践していくうえで、代表的な手法をご紹介します。

プレスリリースの配信
プレスリリースは、企業の公式なスタンスや意思決定を社会に伝える重要な手段。商品・サービスに関する情報だけでなく、経営方針やESGの取り組みなど、企業の存在意義を伝えることができます。また、社内においても、自社の活動が社会貢献につながっていることを従業員に認識させる機会となります。
配信時は、単なる事実の伝達にとどまらず、経営理念やパーパスに沿ったメッセージ設計が求められます。コーポレートコミュニケーションにおいては、「企業の声」として信頼性と透明性を担保し、戦略的に活用すべき情報発信ツールといえるでしょう。
たとえば、東洋製罐グループホールディングス株式会社では、環境問題や社会課題に対する取り組みを紹介するプレスリリースを通じて、企業活動が社会に与える影響を社内外に訴求しています。
下記のインタビュー記事では、プレスリリースの配信において、工夫されているポイントをお話いただいています。
メディアリレーションズ
社外に向けて情報を発信するうえで、メディアとの良好な関係構築は欠かせません。報道を通じて企業の姿勢を社会に広く伝えるには、記者との継続的な対話やタイムリーな情報提供、柔軟な取材対応力が求められます。
また、企業が社会的な文脈に即した発信を行うには、メディアが何を重視し、どのように伝えるかを理解する視点も重要です。メディアは一方通行の発信先ではなく、信頼と共感を広げる「共創相手」として捉えましょう。
メディアリレーションズについての詳細は、下記の記事もご参照ください。
パブリック・アフェアーズ
政策や規制が企業活動に与える影響は年々大きくなっています。パブリック・アフェアーズとは、社会的・公共的な観点から行うコミュニケーション活動であり、行政や政策決定者との対話を通じて企業の立場を伝え、社会との共存を目指す手法です。
ESG規制が強化される中、自社の活動を社会にどう説明するかが問われる場面も増えています。報道や他社事例から学びつつ、自社の存在意義を明文化し、社会課題に進撃に向き合う姿勢を示すことが、信頼される企業市民としてのブランド確立につながります。
下記の記事では、パブリック・アフェアーズについてご紹介しています。
SNS・オウンドメディア・企業ブログの運営
SNSやオウンドメディアは、企業の考えや取り組みをタイムリーに発信し、双方向の関係性を築くための有効なチャンネルです。透明性や対話の姿勢が重視される現代において、語り手としての企業の姿勢が注目されています。
なかでも企業ブログは、中長期的に社員の言葉で経営陣の声や企業文化を発信できる手段です。いずれの手法においても、企業の方向性を意識し、社会と誠実に向き合う姿勢を発信内容に反映させることが、コーポレート視点での活用において重要といえるでしょう。
イベントの開催
対話型の企業イベントやステークホルダーミーティングは、企業の価値観や考え方を「体験」として伝えられる手段です。社員・投資家・地域社会との接点として設けることで、相互理解や共通認識の醸成につながります。
こうしたイベントでは、企業の文化や姿勢を可視化し、参加者との信頼関係を築くことが目的となります。成果指標はイベントの規模や形成ではなく、いかに「関係性」をふかめられたかが重要です。
ブランディング広告
ブランディング広告は、商品訴求を超えて企業のあり方を伝える手段として活用できます。理念やパーパス、社会に対するスタンスなどを一貫した表現で発信することで、潜在層に対して、街中や公共交通機関、スマ-トフォンなどを通じた認知のきっかけを創出できます。
コーポレートコミュニケーションとして活用する際は、短期的な反響を狙うマーケティングとは異なり、ステークホルダーとの長期的な関係構築が目的となります。経営と連動したストーリー設計により、広告を単なるイメージ戦略ではなく、信頼形成の手段として機能させることが重要です。
インフルエンサー・アンバサダーとの協働
信頼されている個人との協働は、企業のメッセージを生活者により近い言葉で届ける手法です。ただし、話題づくりが目的ではなく、企業のパーパスや姿勢に共鳴し、想定する顧客層からも共感を得られる人物をパートナーとして選ぶ必要があります。
コーポレートコミュニケーションの文脈では、「何を誰と伝えるか(What)」よりも、「なぜこの人と伝えるか(Why)」という視点が肝心です。企業と社会の間の信頼を橋渡しする存在として、戦略的に関係を構築することが求められます。
インフルエンサーを起用した具体的な広報活動については、下記の記事で詳しく解説しています。
サステナビリティレポート・統合報告書
財務情報と非財務情報を統合して開示するサステナビリティレポートや統合報告書は、企業の透明性や未来志向を示すための有効なツール。単なる開示資料にとどまらず、企業の価値創造プロセスや中長期的なビジョンを伝える「信頼の設計図」として機能します。
IR部門、広報PR部門、サステナビリティ推進室などが連携し、メッセージの一貫性を保ちながら、数字とストーリーを両立させることが大切です。
統合報告書の構成や作成方法などの詳細は、下記の記事で紹介しています。
社内コミュニケーション
社員一人ひとりが企業の伝え手になる時代において、理念や方針が社内で浸透し、納得感を持って共有されている状態が求められます。これができていなければ、対外発信がかえって信頼を損なうリスクにもなりかねません。
そのため、社内報や経営層によるメッセージ、対話型のメッセージ、対話型のミーティングなどを通じて、組織内における一環した認識の形成が不可欠です。採用広報とも連携させ、社員が「自分ごと」として語れる文化を築くことが、外部への信頼醸成にもつながります。
実際に社内コミュニケーションの施策を考案する際には、成功事例や成功ポイントをまとめた記事も参考にしてみてください。
危機対応・レピュテーションマネジメント
不祥事や炎上などの有事において、企業の対応は瞬時に社会から評価され、企業の評判(レピュテーション)にも直結します。スピード、透明性、誠実さを持って対応する姿勢が、信頼回復の成否を左右します。
危機時の対応は、平時の信頼蓄積の延長線上にあり、備えとしての体制整備や、トップによる迅速な意思決定が不可欠。また、単なる火消しに終わらせるのではなく、再発防止に向けた姿勢や学びを公表することで、信頼の再構築につながります。
危機管理広報の社内体制づくりについては、下記の記事で解説しています。
コーポレートコミュニケーションの成功事例
ここまでご紹介してきた手法を踏まえ、実際に企業がどのようにコーポレートコミュニケーションを実施しているのか、成功事例を見ていきましょう。
株式会社マネーフォワード
金融系Webサービスを提供する株式会社マネーフォワードでは、「MVVC(Mission・Vision・Value・Culture)」の実現に向けた広報・PR活動を強化しています。自社らしいキーワードや、コミュニケーションの質を高めるためのポイントを明文化した「コミュニケーションガイドライン」を策定している点が特徴です。
このMVVCに基づいたワクワクのある表現は、プレスリリースにも反映されており、人事制度や統合報告書に関する情報も積極的に発信。プレスリリースを、企業の想いを直接ユーザーに届ける“コミュニケーションツール”として活用し、社内外への価値提供に貢献しています。
コクヨ株式会社
老舗文具・オフィス家具メーカーのコクヨは、報道掲載の最適化を図るために「メディア・ポートフォリオ」を策定。新聞・テレビ・Web・その他の各メディアについて、掲載割合の目標を設定し、戦略的にターゲットメディアを選定しています。
さらに、社長がメディア出演を通じて経営者にフォーカスする企画へ積極的に参加。自社の工場やオフィスなど社内の画になる環境をアピールポイントとして、発表会や撮影会を開催し、継続的にメディアに取り上げられる機会の創出につなげています。
株式会社スープストックトーキョー
株式会社スープストックトーキョーでは、企業の施策に対して一部から否定的な意見が出た際、自社の姿勢を丁寧に発信・言語化。社員に安心感を与えるとともに、社外からの理解促進を図る取り組みを行いました。
ステークホルダーに対しては、「説明責任を果たす姿勢」を示すことで、企業イメージを損なうことなく透明性と信頼性を確保。自社の理念に基づいたぶれない対応により、共感と支持を獲得しています。
株式会社LIFULL
不動産・住宅情報サービスを提供する株式会社LIFULLは、社名変更に伴うリブランディングを全社員に浸透させるため、社内向けのキックオフイベントを開催。経営陣の直接的なメッセージや動画を活用し、想いや熱量を共有しました。
また、オウンドメディアの開設や、メッセージにタグをつけた投稿、企業理念を体現する著名人の表彰など、多角的な発信を展開。企業のストーリーを社員や社会とともに紡ぐ工夫が見られます。
タカラベルモント株式会社
理美容関連機器を製造・販売するタカラベルモント株式会社は、単発的なパブリシティではなく、メディアが必要とするタイミングに合った情報提供を重視。長期的なメディアリレーションの構築を目指しています。
自社情報に加え、3つ以上の歳時記に関連するトピックを盛り込むことで、メディアにとって客観性のある情報を意識的に発信。企業視点だけに偏らない、第三者目線の情報提供が信頼構築につながっています。
コーポレートコミュニケーションを成功させる5つのポイント
前項の成功事例を踏まえて、コーポレートコミュニケーションの質を高めるために注力すべき5つのポイントをご紹介します。

ポイント1.トップメッセージと一貫性を持つ
コーポレートコミュニケーションは、企業の理念やパーパスを社会に届ける活動です。経営トップの言葉や行動が、実際のコミュニケーションと一致しているかどうかは、信頼の要になります。
経営者のメッセージは、社外だけでなく社内にも大きな影響を与えます。現場任せにせず、トップの言葉が企業全体の声として届くように、設計・管理が大切。理念と現実のギャップを埋め、一貫性のある発信が、ブランド価値の土台を支えます。
ポイント2.ステークホルダーの目線を持つ
「伝えたいこと」だけを並べても、コーポレートコミュニケーションは機能しません。重要なのは、誰に・どう受け取られたいのかという視点です。
社員や投資家、顧客、行政、メディアなど、ステークホルダーの関心や期待はさまざまです。それぞれの立場や「理解の文脈」を読み取り、相手の目線に立ったメッセージ設計を行うことで、共感と信頼の獲得につながります。
ポイント3.社内と社外の整合性を保つ
外向けには華やかなメッセージを掲げていても、社内でその認識が共有されていなければ、メッセージの説得力は失われてしまいます。
社員が自社の方針やパーパスに納得し、腹落ちしていることが、対外的な信頼にも直結します。社内広報やインナーブランディングと連携し、内側から支えるストーリー設計を行いましょう。社内外のメッセージが矛盾なく連動しているか、常に点検することが不可欠です。
ポイント4.対話の設計まで行う
コミュニケーションとは、一方通行の「発信」だけではなく、双方向の「対話」までを含めて設計することが重要です。
SNSでのフィードバック対応や社員との対話型施策、記者や行政との関係構築など、“聞く・応える・巻き込む”プロセスを取り入れることで、メッセージは共感される「声」として機能します。
企業が多様な声に耳を傾け、それを行動に反映していく姿勢こそが、持続的な企業価値の源になります。
ポイント5.平時から危機に備える
信頼を築くには時間がかかりますが、失うのは一瞬です。だからこそ、危機対応力は日常のコミュニケーション姿勢に左右されます。平常時から、情報発信の一貫性、ステークホルダーとの対話、誠実な対応などを積み重ねておくことで、レピュテーション(評判)の土台が築かれます。
信頼を得ている企業ほど、批判や不祥事の際にも耳を傾けてもらいやすく、回復も早い傾向に。これまでのポイント1~4は、すべてこの「信頼の貯金」につながります。備え、としてのコーポレートコミュニケーションこそが、いざという時の力になるでしょう。
信頼関係を築き企業価値を高める対話を
コーポレートコミュニケーションは、社内外の多様なステークホルダーと信頼関係を築き、企業価値を高めるための戦略的な情報発信・対話活動です。広報PRやCSR、IR、社内広報などを統合し、企業の理念やパーパスを整合性を持って伝える役割を担います。
その質を高めるためには、誠実な対話、社内外の関係構築、一貫性のある発信が欠かせません。ご紹介した成功事例をヒントに、トップの姿勢と連動した対話設計を意識しながら、自社にとって最適なコミュニケーションの形を築いていきましょう。
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